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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

2019年 05月 06日 ( 1 )

子供に教える世界史・番外編/映画で学ぶ世界史『天地創造』

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僕が子供の頃は小学校の図書室には必ずあった「聖書物語」。波乱万丈、時には理不尽で残酷な物語は、断片的にでも印象に残っている。
また、近代以前の西洋美術のテーマの多くはキリスト教的なものなので、聖書のストーリーはざっくりとは覚えていた。
が、息子は聖書の中の人物名も、その名を拝借したアニメぐらいの知識しかないので、手っ取り早くとこの映画を見せた。
175分あるが、映画なら一度見れば何となく頭に入るだろう。少々退屈だが。

『天地創造』(原題「The Bible : in the Beginning」)は1966年公開のアメリカ=イタリア合作映画。
旧約聖書の中の「創世記」の第1章の「天地創造」から第22章の「イサクの犠牲」までを映画化したものだ。
トータルに流れるようなストーリーはなく、とはいって大胆な脚色を加えるわけにもいかず(カトリック中央協議会監修)、映画単体としてみると盛り上がりに欠ける凡作かもしれない。なので、“勉強”として見せるしかなかった。
本嫌いな息子にはその方が早い。

神による「天地創造」から映画は始まる。
「はじめに神は天と地を創造された」とナレーションが入る。
印象的なのは「光あれ」と神がいい、光を見て神が「よし」とされたこと。
そして昼と夜が作られ1日目が終わった。
こんな調子で、この天地創造の部分はイメージ的に作られ、6日目に人間が登場する。アダムだ

ちなみに現代以前は、聖書の中の記述から天地創造の年代を推測する研究が行われていた。諸説あるが紀元前5500〜前4000年ぐらいのこととされている。

最初に作られた人間の男性アダムから、女性イブが作られた。全裸だが、当時の映画コードだとまずいので長い髪の毛や角度でうまくごまかしている(笑)。
やがて、イブは蛇(悪魔)の誘惑に負けて禁断の実を食べてしまい、それをアダムにもすすめる。
二人が服を着ているので神は実を食べたことを知り、二人を楽園(エデン)から追放する。
そんなことするぐらいなら、そこに禁断の実がなる木を生やすなよと思うのだが。。
またこの木は「善悪の知識の木」とされているので、ここで人間が実を食べなかったら文明もなかったわけだ。
「人は何も知らない方が幸せ」という、昔の人の考えもあるのだろう。

映画の次のシーンは楽園を追われ、自らの力で食料を獲得しなければならなくなったアダムの一家、息子のカイン(リチャード・ハリス=初代ダンブルドア校長)とアベル(フランコ・ネロ)の話だ。
兄のカインは農耕を、弟のアベルは放牧に従事し、それぞれ供物を神に捧げるが、神はアベルのものを受け取るがカインのものを無視。
嫉妬したカインは弟のアベルを殺害。「人類最初の殺人」だ。
神はカインをエデンの東の地へと追放する。
これも“えこひいき”する神が悪いようにしか見えないのだが、もともと旧約聖書が牧畜民であるユダヤ人の先祖の伝承なので、「牧畜民の方が農耕民よりエラい」ということを言いたいのだろう。
このカインとアベルの話をモチーフとした作品は、西欧文化の中に多い。
父親(母親)に認められなかった兄弟が片方に嫉妬したり、認められようとしてより悪い結果になったりするという話だ。
兄弟は人生における最初のライバルなのだ。
ジェームズ・ディーン主演の映画『エデンの東』は、まさしくそんなカインとアベルのテーマを持ち込んだ話だ。
スタインベックの原作はもっと長く、文庫で4巻あるうちの最後の1巻の部分を映画化したもの。
兄弟の嫉妬と確執、親に認められたい息子の話だ。

次のエピソード「ノアの箱舟」でいきなり大作感が。
神は増えすぎて堕落した人間を滅ぼそうとするが(勝手だ)、信仰深いノアとその家族だけは救おうと方舟を作らせる。
ひとつがいの動物たちが方舟に乗り込むシーンが迫力あり。大洪水が起き、地上のものはすべて死に絶える。
神はもう二度とこんなことはしないとノアに約束する。元ネタはシュメール人の洪水神話という。

次は「バベルの塔」のシーンだ。聖書では短い記述だが、神を恐れぬ王が天にも届く塔を作って神の怒りを買い、神は人々が集まらぬようお互いの言葉をわからなくするという話だ。
つい雷に塔が破壊されるようなスペクタクルを想像してしまうが、塔の破壊は聖書にはない。
ここでのポイントは、なぜ世界にはいろいろな言語があるかの説明だ。
神は世界に人々を散らそうとしたが、集まってきてしまうので言葉を通じないようにしたのだ。
ブリューゲルの絵など、絵画によく描かれるモチーフだ。
ここで前編終了。息子一度寝る。

後編は、族長アブラハムの物語。創世記なら12章から22章まで。非キリスト教徒には馴染みがない話なので、これは映画で見て覚えておくといいだろう。
遊牧民の族長アブラハム(ジョージ・C・スコット)は神のお告げを受け、カルデアのウルからハランを経て、カナン(パレスチナ)を目指す。
前半のハイライトは、映画的に見栄えのするソドムとゴモラ。
アブラハムの弟ロトはヨルダンの地にあるソドムに住んでいたが、神は退廃したソドムとゴモラの町を滅ぼすことを決め、信心深いロトとその家族だけ逃す。ここで登場する神の3人の使い(ピーター・オトゥール)が不気味で怖い。町を脱出する途中、振り返ったロトの妻は塩の柱になってしまう。今だったらCGでもっとリアルにするだろう。

一方、アブラハムは妻サラ(エヴァ・ガードナー)との間に子供ができず、奴隷の女との間にイシュマエルが生まれる。
しかし神は約束通り、高齢になったサラとの間にイサクを誕生させる。
ハイライトは西洋絵画のテーマでよく見かける「イサクの犠牲」だ。
神がひとり息子イサクを犠牲に捧げるようアブラハムに強いて、彼の信仰を試すというエピソードだ。
結局、神はアブラハムが本当に信心深いか試しただけだったが、極悪な試し方だと思ってしまう。カラヴァッジョの絵が怖いので、見て欲しい。

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こうして映画は終わる。長いが、教養としては「創世記」が3時間で身につくので、聖書の話や西洋絵画のテーマを知りたい人は、見ておいて損はない。
映画としてみると冗長だが、テレビの教養番組としてみるならいいかと思う。息子もこの映画を見たあと、西洋絵画のテーマが少しわかるようになったという。■


by mahaera | 2019-05-06 10:23 | 子供に教える世界史・古代編 | Comments(0)