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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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2019年 05月 19日 ( 1 )

最新映画レビュー『マルリナの明日』5/18より公開中


インドネシアの僻地。荒野の一軒家に一人暮らすマルリナのもとに強盗団がやってくる。
強盗団の首領は、マルリナから金と家畜だけでなく、体も奪うと告げる。
その夜、マルリナは料理に毒を入れ、男たちを殺害。
首領の首をナタで切り落とす。
翌日、首を持って村の警察に向かうマルリナ。
しかし警察は動こうとしない。一方、強盗団の残党が首領の仇を討とうと、マルリナを追っていた。

日本では映画祭ぐらいでしか公開されない、珍しいインドネシア映画。それも都会を舞台にしたラブコメやアクションではなく、人も少ない辺境の島でのウエスタン風アクションだ。
ストーリーは、一人ぐらしの未亡人マルリナが強盗団に反撃するが、そのために命を狙われるというシンプルなもの。
それに臨月を控えた友人のノヴィが絡む。
出てくる人物はごくわずか。とにかく一つの画面にたくさん人が出てくる町や村のシーンはないので、どの程度の規模の村なのかわからないがわからないが、バスが走っているので、どこかには通じているのだろう。

丘上に立つ一軒家にひとり住むマルリナ。
映画が始まって部屋の中が映し出されると、部屋の中に一体のミイラ化した死体が座っているのに驚く。
これはマルリナが殺したわけではなく、彼女の夫。
この映画の舞台のスンバ島では人が死ぬとすぐに埋めず、お金がたまって盛大な葬式ができるまで、死者をミイラ化して残しておくという風習がある。
つまりその間、何年も死者は生者と一緒に暮らすことがあるのだそうだ。
また、家の外にはマルリナの子供の墓がある。
生者と死者の距離が近いのだ。

インドネシアというと緑豊かな熱帯雨林をイメージすると思う。確かに国土の多くはそうだが、舞台となるスンバ島エリアは、オーストラリアからの乾燥した風が吹くため、大地は土が露出したサバンナ気候。
世界で一番大きなトカゲが棲むコモド島などもこの海域にあるため行ったことがあるが、東南アジア的な風景からはほど遠い。本作がどこかウエスタン風なのも、こうした風景がもたらすものが多い。今でもスンバ島では強盗団が出没するという。

映画に出てくる強盗団はウエスタンと違って、そこらにいそうな冴えない男たち。
首領でさえ小柄。インドネシアやタイ、インドもそうだが、熱帯ではヤクザものも割と普通の格好をしているので、ぱっと見、わからない。

また、この映画は“強い女”の映画でもある。
強い女と言っても、アメリカのアクション映画のように、殴ったり撃ったりと肉体的に戦うわけではない。
じっと耐え忍んで抵抗せず、相手が油断した時に反撃するのだ。強盗のために食事を作らされると(定番のチキンスープ飯である「ソト・アヤム」)、その中に毒を入れて毒殺。犯されそうになると、ナタで首を切断(いつもチキンの首を切断しているので慣れている)。

中盤から物語に絡んでくるもう一人の女性、ノヴィは臨月だが夫から虐待されている。
夫はノヴィの浮気を疑い、去っていく。
物語のクライマックス、ノヴィの出産をマルリナが手伝う。
男どもの死と新たな命の誕生。
この映画の中では、男どもは全く役に立たないか、悪者かどちらかだ。目の前にある困難を克服するには、男に頼るのではなく、女同士の協力が大事なのだ。

勧善懲悪でもなく、派手なアクションシーンがあるわけではない。語り口が滑らかでもない。
しかし、この土地ならではの不思議な魅力があるのが、本作の魅力。画面に映し出された風景が、作り手たちの力量を超えて私たちに訴えてくる。そんな作品だ。
★★★


by mahaera | 2019-05-19 11:22 | 映画のはなし | Comments(0)