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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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マエハラ的名画館『大統領の陰謀』午前十時の映画祭にて公開中

ウォーターゲート事件を追うワシントンポストの2人の記者の姿を描く。アカデミー賞4部門受賞。



1976年

アラン・J・パクラ監督

ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジェイソン・ロバーツ


この映画を観るのはおそらく40年ぶり。
当時、映画少年だった高校生の僕は、なんだか勉強をしに行ったような気分で、面白くなかったことだけは覚えている。
前評判はよく、新聞記者が悪事を暴く、痛快なサスペンスを期待していったのだが、映画の大半は記者が電話をしているかインタビューをしているか、調べているだけ。
銃撃も爆発もなければ、サスペンスもなし。悪人も出ないし、何よりも悪者がやられるカタルシスがない。
これからってところで映画は終わってしまうのだ。


1972年、ワシントンDCのウォーターゲートビルにある民主党の本部で、5人の不法侵入者が逮捕される。
ワシントンポストの新米記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)は、逮捕されたばかりで電話もできないのに、容疑者たちに立派な弁護士がついていること、元CIAがいることに違和感を抱く。
また、多額の現金と盗聴器器を持っていたことから、単なる泥棒ではなく、誰かに雇われているらしい。
ウッドワードは、先輩記者のカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とコンビを組んで調査に乗り出すが、糸口がつかめない。
内部情報提供者のディープ・スロートは、「金を追え」とだけしか言わない。
しかし、犯人への報酬が、ニクソン大統領の再選委員会から出ていたことをつかむ。


40年ぶりに見た本作は、こちらが大人になったせいか実に面白かった。
映画は2人の記者の視点から離れることはないので、事件に関わったおよそ20人近い人物名が飛び交い、その関係を頭で整理するだけでも精一杯。
しかし、これはそもそも事件の知識がなければ無理で、そのあたりの混乱も狙った脚本だ。
最初は事件の全容がつかめず、まるで霧の中を歩いているような気分だが、それは主人公たちと同じ気分にするため。
ようやく証言が取れたと思うと、オフレコの話ばかりで証拠にはならない。
怪しいだけでは記事にはできない。
編集主幹(ジェイソン・ロバーツ、本作でアカデミー助演男優賞受賞)から、「証拠を固めろ」とゲキが飛ぶ。

久しぶりに見てあらためて思ったのが、インターネットのない時代は大変だなあということ。
とにかく記者は電話をしまくり、相手の話を聞き出す。
そして資料を請求し、年間で名前を調べ、電話をしたり、相手の家に突撃取材をする。
二週間何の成果もなかったりと、とにかく見てて大変なのだ。

2時間を超える映画だが、描かれたのはウォーターゲート事件が起きてから最初の4か月。
映画は2人の取材がまだ成果を上げず、ニクソンが再選されたところで終わる。
「え?ここで終わり? 事件はどうなの」と当時の人も思ったと思う。
「ウォーターゲート事件」は、再選を目指すニクソン大統領が、ライバルの民主党本部に盗聴器を仕掛けた事件だが、当初、世間の関心は薄かった。
ニクソンは中国訪問やベトナムからの撤退と成果を上げており、国民の人気も高かった。
何もしないでも再選は確実だったのに、なぜそんなことをするか。
答えは「盗聴マニア」だったから。
この事件が裁判で解明されるしたがって、ニクソンの人気は落ち、任期途中で大統領を辞めた唯一のアメリカ大統領になった。
盗聴や謀議はそれまでもずっとしていたことがわかれば、一気に信用はなくなる。
ライバルの民主党がスキャンダルで自滅して行ったのも、実はニクソンが盗聴してマスコミにリークしたり、あるいはでっちあげで風評被害を作り上げていたのだ。
まあ、いまも与党がネットニュースのコメント欄でやらせを使って自分たちをヨイショしたり、他党を批判したりというのは、やってることだけど。


さて、映画はこの事件をちっとも解明しない。
エンディングは唐突にやってくる。
まだ事件の入り口で、世間の関心も低く、ニクソンが゜再選される。
そのニュースがテレビから流れる脇で、2人の記者は黙々とタイプライターに向かっている。
そのあと、テロップで、その数年後の裁判で多くの関係者が逮捕され、ニクソンが辞任したことが、音楽もなく淡々とつづられる。
少年の頃は、このカタルシスのない終わり方に「とほほ」と思ったが、こちらも大人になり、見方は変わった。
この映画は、ウォーターゲート事件や大統領の陰謀の映画ではなく、ジャーナリズムの映画であると。
だから、この地味だが熱意がなければできない仕事を、こつこつ積み上げているところを描いて終わっているのだ。
結構この終わり方、今見ると静かだが、その後のことを知ると強いドラマを感じる。
何事も地道な積み重ねが大事。★★★★


by mahaera | 2019-03-16 11:19 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『シェイプ・オブ・ウォーター』 本年度、アカデミー作品賞受賞作




いうまでもなく、今年のアカデミー作品賞受賞作品
今まで、知る人ぞ知る、怪獣大好きデル・トロ監督が、
こうして評価されたことはうれしい。
97年の「ミミック」や2001年の「デビルズ・バックボーン」の頃は、ジャンル映画の監督で一生終わるのかなと思っていたが、
やはり作家性が花開いたのは2006年の「パンズ・ラビリンス」かな。
これが今の所の彼の最高傑作だ。

さて、公開からだいぶ経っているので、今更僕が書くことも少ないのだが、ちょっと映画のメインテーマからそれたところを。
主人公と対照的に描かれている、この映画の悪役、
マイケル・シャノン演じるストリックランドの描写が、
結構丹念に描かれていて、下手をすると主人公よりも感情移入しやすい。
単なる悪役ならば、冷酷な部分だけを描写すればいいが、
ストーリーには不要な彼の家庭も描かれている。
50年代の典型的な幸せなアメリカンの中流階級。
問題のない、明るい光が当たっている家庭で、
ストリックランドだけが異質だ。
彼は家庭では居場所がないように見える。
一方、研究所では、一見彼が支配者のようだ。
他のものを震え上がらせることができるが、
役職的にはそんなに上ではない。

ストリックランドが、新車を買いに行くシーンも印象的だ。
あのシーンがあるからこそ、彼の哀れな小物感がにじみ出る。
そして、上官である将軍に認められないことを訴える
「いつになったら、まとも(decent)な男として認めてくれるのか!」というセリフも、人間味が出ている。
相手を従えることでしか、関係が築けない、
マチズモに支配された哀れな男。
主人公と半魚人の愛の形と対照的だ。

そして、ラスト。ここで観客は、
物語の語り手が隣人のジャイルズであることに気づく
つまり映画は、全編を通して、これはジャイルズの語る話であることを、ここで再確認させらるのだ。
半魚人と結ばれるイライザの姿は、
ジャイルスが目撃したことではない。
つまりあれは想像とも取れる。
映画の手法で良くある「信じられない語り手」だ。
「パンズ・ラビリンス」はいい映画だが、
エンディングは悲しいもので、
観客に十分なカタルシスを与えることができなかった。
それを受けて、ハッピーな気持ちで劇場を出られるよう、
「語り手」にハッピーエンディングを語らせたと思うのは、うがった見方だろうか。


by mahaera | 2018-03-31 12:45 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』スピルバーグの硬派な面が出た実話の映画化



あれ、スピルバーグは4月公開の「レディ・プレイヤー1」
あるのでは?と思った方もいるだろう。
早撮りで有名なスピルバーグだが、なんとその
「レディ・プレイヤー1」のポストプロダクション(撮影後のCGIや編集などの後作業)の期間を利用して、この映画を撮り終え、しかも先に公開してしまったのだ。
2017年3月に主要キャストへのオファーが行われ、5月に撮影開始、11月6日には完成して12月に公開という、
ハリウッド大作としては異例の早さ。
それだけ、スピルバーグには「今、作らねば」という
切迫感があったのだろう。

映画は1971年の実話が元。

1940年代から1960年代にかけて、ペンタゴンが政府に提出した
ベトナム政策に対する報告書の流出事件だ。
この文書はアメリカの4つの政権にわたる膨大なもので、
「アメリカはベトナムに干渉しても勝つことはできず、泥沼化する」という報告だった。
ところが政府はその調査報告を握りつぶし、
「兵力を増やせばベトナムで勝利する」と国民に嘘をつき、
多くのアメリカ国民をベトナムに送り込んだ。
それに憤った調査研究所の職員が文書を密かに持ち出し、
7000枚に及ぶコピーを撮ったのだ。

文書はまずニューヨークタイムズに持ち込まれ、
三ヶ月にわたる精査の結果、新聞で公開。
しかし、2日目にニクソン政権によって、
裁判所命令で掲載が差しとめられる。
国の機密事項の漏洩だと。
映画は、そのタイムズのスクープを
ワシントンポストが掴んだところから始まる。
編集主幹(トム・ハンクス)はその文書を入手するが、
タイムズは起訴されて掲載ができなくなっている。
掲載すればタイムズ同様に、政府に起訴される可能性が出てくる。
社内は、報道の自由を守るか、政府に忖度するか、意見が割れる。

もう一人の主人公がメリル・ストリープ扮する
ワシントンポストの社主だ。もともと主婦だった彼女は、
社主だった夫の自殺とより初めて会社経営をすることになるが、
周囲からは「お嬢様」と軽んじられて苦労する。
実際、歴代の大統領や、国防長官のマクナマラとは、
家族ぐるみの付き合いだった。
そして会社が株式公開をして家族経営のローカル新聞から
抜け出そうという矢先に、この事件が起きる。
そして彼女は掲載か自主規制かの決断を迫られることになる。

メリル・ストリープ、当たり前だが、演技がうまい。
彼女は一昨年のゴールデングローブ賞のスピーチで、
まだ大統領になる前のトランプが
身体障害者の記者の物真似をしたことを暗に非難。
するとトランプが、「ストリープは、過大評価されすぎの俳優」
とツイートで仕返した。
そんなことからも、本作がなぜ、今、作られ、
ストリープが主演を快諾したかは誰でも推測できるだろう。

政府が国民に知られたくないことを隠し、
真実を隠蔽するのは犯罪である。
また、報道に圧力をかけて自主規制させるのも犯罪だ。
そしてそれは民主主義の精神に反していると。
きっと映画を見ていて、あれ、これ日本の話じゃない?と、皆さんも思うだろう。
「民主主義」はチェック機能がないと、
きちんと動作しないシステムだ

そして所詮官僚には無理な話で、それはアメリカでも同じ。
一部の勇気あるものが権力の腐敗をリークし、
それを報道する機関がなければ、民主主義は「幻」となる。
ニクソンがその後、任期途中で退陣したことは、
皆さんはご存知だろう。
ニクソンは圧倒的な国民の支持率があったにもかかわらず、
その後対応がすべて裏目に出て、翌年「ウォーターゲート事件」が
致命傷となって、任期途中で辞めたアメリカ唯一の大統領となる。


by mahaera | 2018-03-23 11:42 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ダウンサイズ』 前半はSFコメディ、後半は「幸福論」と物語の方向が変わる作品




2017年/アメリカ
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:マット・デイモン、クリストフ・ヴァルツ、ホン・チャウ、クリステン・ウィグ、ウド・キア
配給:東和ピクチャーズ
公開:3月2日より全国

あまりヒットせず、シネコンではそろそろ打ち切りになっているようだが、元来これは拡大公開向きの作品ではない。
『アバウトシュミット』『ネブラスカ』
『ファミリーツリー』など、スパッと割り切れない、
非常に細やかな人の心(大抵登場人物でさえもモヤモヤしている)を描く、アレクサンダー・ペイン作品なんだから。
奇抜なコメディと思って見ていると、
話はどんどん違う方向へ行ってしまう。

ネブラスカで医学療法士をしているポールは、
今の稼ぎでは贅沢はできない。
しかしノルウェーで開発された技術で小さくなれば、
今の資産で優雅な生活が送れるという。
夫婦でその計画に参加するが、妻は途中で離脱。
ポールだけ小さくなってしまう。
小さい人たちだけ住む町でポールは暮らし始めるが、
人生は思わぬ方向に。。。

予告編だけ見ていると、小さくなってしまったことから起きる
コメディかと思うが、
コメディなのかは見ていてもよく分からない。
そこはかとない哀しみも漂い、途中から小さい人たちだけの話になるので、カルチャーギャップ的なシーンも少なくなる。
小さくなっても、貧富の差は相変わらずあるし、
小さくなっても相変わらず、
メキシコやアジア系移民が掃除などの下働きをしている。

むしろ「裕福になること」が幸せだと思っていたポールが、
ベトナム難民の女性と知り合うことにより、
自分が本当に目指していたものに気づいていくという話(幸福論)に変化していくのだ。
最後もまた唐突に話の方向性が変わり、
「これはそもそもどんな話だったっけ?」と混乱するだろう。
その時点で我々は映画が始まったところから、
もう主人公だけでなく、私たちも随分遠いところまできてしまったことに気づくのだ。

まあ、コメディSFぽい前半と、
幸福論を追求する後半とばらけてしまって、
作品として成功している映画とは言い難いのだが、
それもまた変な味わいになっており、捨てがたい。
★★☆


by mahaera | 2018-03-20 01:05 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』



2017年/アメリカ

監督:マイケル・ショウォルター
出演:クメイル・ナンジアニ、ゾーイ・カザン、レイ・ロマノ、ホリー・ハンター
配給:ギャガ
公開:2月23日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにて公開中

主人公はシカゴに住むパキスタンからの移民一家の息子。
アメリカに来て成功した親は、
息子に医者か弁護士を望んでいるが、
息子はコメディアンを目指して、昼間はUBERの運転手をしている。
その息子が、白人女性と恋に落ちるが、
一家は「白人女性なんて!」と大反対。
結婚相手は、パキスタン女性じゃないとと、息子を勘当。
一方で、彼女も主人公の煮え切らない態度に愛想を尽かし、
仲は破局に。
しかし、そのすぐ後、彼女は病気から昏睡状態になって
病院に入院してしまう。
眠り続ける彼女を看病しながら、
主人公は彼女こそ自分の大事な人だと気づく。 

ニューヨークを舞台にした映画では、タクシー運転手は
インド人かパキスタン人と決まっているが(笑)、
ここではUBERというのが今日的。
しかも貧しい移民ではなく、成功した移民一家の息子というのも、定型の役柄とは違う。
主人公は週末になると実家に帰って、家族で食事をするのだが、
そこでは描かれるのは、移民した第一世代とアメリカで育った第二世代との文化ギャップだ。
また、コメディでパキスタン系というと、
扱うには難しい宗教ネタだが、
本作ではそこを避けずに(みんなが知りたいところでもある)、
主人公にあえて彼の宗教観を語らせているのは、
勇気がいったろう。 
中盤、彼女が昏睡してからは、
主人公と駆けつけた彼女の両親とのやりとりが中心になるのだが、
この両親がそれぞれ欠点もあるが良い人たちで、
人間味を感じさせる演技が実に良い。
夫婦の感情のすれ違いとか、うまい。
ちなみに母親役はホリー・ハンターだ。 

実は、本作は実話の映画化で、
主人公はコメディアンである本人自身が演じている。
結末は、ハッピーエンドの『ラ・ラ・ランド』と言っておこう。
by mahaera | 2018-03-13 12:47 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『スリー・ビルボード』 優しさは怒りの炎を消す、「許し」になるのか



本年のゴールデングローブ賞作品賞ほか、
アカデミー作品賞にもノミネート
主演は『ファーゴ』などのフランシス・マクドーマンド

ミズーリ州の田舎町で十代の女性がレイプされて
焼死体で見つかるという事件が起きた。
それから7か月たち、一向に捜査が進展しないことに
業を煮やした母親ミルドレッドは警察に不信感を抱き、
町はずれに見捨てられたようになっている
3つの立て看板(スリー・ビルボード)に、
警察署長を名指しで非難する広告を載せる。
警察署長を慕う町の人たち、そして粗暴だが署長を敬愛している警官のディクソンは、ミルドレッドの行動に憤慨し、やがて両者は対立。事態は思わぬ方向へと進んで行く。

観客の心を不穏にさせる、先の読めない展開だ。
映画はまず、母親ミルドレッドを中心に展開。
娘を亡くした悲しみや苛立ちに同情し、署長が悪いのか、
何か陰謀があるのかと思って見ている。
しかし今度は署長(ウディ・ハレルソン)を中心に話が進むパートが来ると、署長にも事情があり、人徳者であり、人々に敬愛されていることもよくわかってくる。
つまり、ミルドレッドの怒りの矛先は見当違いだと。
そしてちっょと頭が足りなく、人種偏見に満ちて粗暴な警官のディクソン(サム・ロックウェルの忘れられない当たり役)
彼は映画の前半では、完全に憎まれ役なのだが、
彼が後半、意外な展開を見せるのも驚きだ。
とにかく、先入観なく見ていくのがいいかと思う。

ただし、勧善懲悪や、スッキリとした答えを映画に求める人には
全く向いていない。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が好きな人はOK
基本的にこの映画では、すべてにおいて白黒はつけない。
現実世界と同じで、人間は複雑であり、
見る人によってその人の印象も違う。
いい人だと思っていたら、どす黒い部分もあったり、
ダメな奴の中にも善はある。
そして誰にも、ちょっとした思いやりや優しさの心はあり、
それを怒りの炎で消してはならない。
そんなわけでオレンジジュースのシーンは、名場面

最後を救われないと思うか、かすかな希望と見るかは、
人によって異なるだろう。
現実でも、同じ場面でも人によって受け止め方は違うのと同じだ。
タイトルの「スリー・ビルボード」とは、
本作品の3人の主要人物のことでもある。
看板には、誰も気にも留めないが裏側もあるのだ
おすすめ。


by mahaera | 2018-02-16 11:41 | 映画のはなし | Comments(1)

スピルバーグ落穂拾い・その1 『カラーパープル』アカデミー賞無冠に終わったドラマ



僕はスピルバーグが監督としてデビューした
『刑事コロンボ/構想の死角』(1971)ぐらいから
映画を観出したので、常にスピルバーグの新作を
見続けてきたことになる。
『激突!』はテレ東でやっていた「淀川長治映画劇場」の紹介を見て、8分くらいの紹介シーンを頭に焼き付け、小6の美術の時間にその紙芝居を作った(笑)。
1975年の『ジョーズ』は、当時の中学生には
想像もつかないほど怖かったホラー。
以降、たいていの作品は見ているし、
「スピルバーグ=映画」と言っていいほど、
世界一映画に精通した監督であることは間違いない。

さて、30本以上ある彼のフィルモグラフィーのうち、
重要作「カラーパープル」と「シンドラーのリスト」は、
なぜか見そびれてしまっていた。
あまりにも有名で評価が定まっているので、
わざわざみようという気が起きなかったのだろう
(他に見ていないのは『オールウェィズ』『タンタンの冒険』『BFG』のみ)。
で、前に中古DVDを購入していたのだが、
まずは『カラーパープル』(1985)を見る。

20世紀初頭のアメリカ深南部が舞台。
黒人が多く暮らす農村地帯で、
セリー(ウーピー・ゴールドバーグが本作で映画デビュー)は、
父の子を2人産むが、子供はどこかに売られ、
自身は近隣の農家のミスター(ダニー・グローバー)の
嫁にだされる。
彼女の心の支えは、妹のネッティだったが、彼女もまた父、そしてミスターの性欲の対象にされそうになり、この地を出て行った。
生きている限り、セリーに必ず手紙を書くと約束して。
力で支配するミスターの元ですべてを諦めていたセリーだが、歌手のシャグやソフィア(オブラ・ウィンフリー)といった、男に負けない女性たちに勇気づけられる。

当時、アカデミー賞に10部門にノミネートされたが、
一つも賞を取れなかったことが話題になったが、できは悪くない。
いや、隙のない作りで、脚本もきちんとしているし、
俳優たちの演技、撮影も申し分ない。
それらをコントロールしているスピルバーグの力量も素晴らしい。
そして最後には、観客に対するご褒美であるカタルシスも用意されている。
しかし、そうした優等生的なところが反発されたのだろうが、
作品賞受賞作の『愛と哀しみの果て』よりは、覚えている人は多いだろう。
★☆

by mahaera | 2018-02-10 14:43 | 映画のはなし | Comments(0)

映画レビュー 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 冬の田舎の港町が主人公の心象風景と重なる



マンチェスター・バイ・ザ・シー


年末ベストテン候補かもとレンタルで観る。
派手さはゼロだが、しみじみとした作品で、ズシンときた。
ケイシー・アフレックが本作でアカデミー主演男優賞、
監督と脚本のケネス・ロナーガンが
オリジナル脚本賞を受賞した人間ドラマだ。

ボストンで便利屋をしているリー。
人と交流をしようとせず、近寄ってくる人も冷たくあしらう。
そして、時折生じる暴力。魂の抜け殻のような男の元に、
故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに住む
兄が亡くなったとの知らせが来る。
帰郷したリーは兄の家へ。
そこにはかつて仲良くしていた兄の息子パトリックがいた。
葬儀などの手続きを進めていくリーは、
遺言によって家族がいないパトリックの後見人に
指名されていたが、彼には乗り越えられない過去があった。。

イギリスの大都市マンチェンスターは大違いの、
アメリカ北部にある寂しい小さな港町
マンチェスター・バイ・ザ・シー。
冬の寒々とした風景が、主人公の心象風景と重なる。
過去に取り返しのつかないことをしてしまった主人公。
映画の終盤ではなく、中盤でそれが明かされるが、
物語は傷が癒されるというハッピーな映画的な解決にはいかない。
故郷で暮らすのができないほど、彼の心の傷は大きい。
おそらく彼には死ぬまで、心の救いはないだろう。
それでも、ほんの、ほんのわずかだが温かみを感じさせる進展がないわけではない。
「空虚」という演技がうまいケイシー・アフレックが、
この役を演じたのはまさにピッタリ。
どんより曇った空の休日、
一人で落ち着いた日を過ごしたい時にオススメ。
こう言う映画が苦手な人もいると思うが、
こう言う人生を送っている人もいるのだ。
by mahaera | 2017-12-22 12:29 | 映画のはなし | Comments(0)

映画レビュー『フェンス』 デンゼル・ワシントン監督・主演の未公開映画の秀作



フェンス
Fences

監督・主演 デンゼル・ワシントン


日本未公開になってしまったが、なかなかの秀作だった。
妻役のヴィオラ・ディヴィスは本作でアカデミー助演女優賞
獲得しているし、本作は作品賞を含む4部門にノミネートされており、一級品であることは予想してはいたが、日本では公開スルーされてしまったのは、惜しい。
機会があったら、DVDで借りてみてほしい。

時代は1957年のアメリカ。
清掃局でゴミ収集をするトロイ(デンゼル)は、
かつて黒人野球リーグで名を馳せた選手だったが、
人種の壁に阻まれてプロの夢は叶わなかった。
前妻の子ライオンズが訪ねてくるが、定職につかず
ミュージシャンを目指す彼に対して、トロイは冷たい。
妻のローズとの間の子コーリーは高校のフットボール選手で、
大学にスカウトされることを望んでいるが、
トロイは夢は捨てろと辛く当たる。
トロイは父親として息子に惨めな思いをさせたくない
という思いと、自分が果たせなかった夢を乗り越えようとする
息子に対しての嫉妬が入り混じり苦悩。
次第に家族関係はギクシャクしていく。

原作はブロードウェイで上演されて、高い評価を得た戯曲だ。
映画はその2010年版の主要キャストがほぼ全員出ており
デンゼルもその舞台で主役を務めていた。
舞台の設定をそのまま残しているので、
多くのシーンが展開するのは、ある家庭の裏庭と台所。
そこにいろんな人がれ変わり立ち代りやってきての
会話劇が中心だ。

時代はすでに公民権運動が盛りがり、黒人も声を上げているが、
主人公はそれに背を向け、
これからの世代である息子たちを否定する。
タイトルの「フェンス」は、劇中で裏庭に大工仕事で
親子で作ろうとする柵だが、それは心の壁である。
新しい考えや人の干渉から自分を守る柵であり、
妻からすれば夫を外(他の女)に生かさないための柵、
息子からすれば自分を支配するために父親が作る柵だ。
家族をフェンスで囲い、皆が出られないようにして、
自分だけが自由に出入りできる柵のようにも見える。

アカデミー賞を受賞したヴィオラ・ディヴィスの演技は、
当然とも言える素晴らしさ。
家族のために自分を犠牲にして尽くしてきた彼女が、
心情を吐露するシーンは、会社人間の夫たちみんなに聞かせてあげたい。
★☆

by mahaera | 2017-12-13 10:57 | 映画のはなし | Comments(0)