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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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タグ:ドキュメンタリー ( 14 ) タグの人気記事

最新映画レビュー『サッドヒルを掘り返せ』あの名作ウエスタンのロケ地を有志たちが復活!


セルジオ・レオーネ監督作品はすべて名作だが、なかでも世界中の人々に愛されているのが『続・夕陽のガンマン』だ。
南北戦争を背景に、3人の無法者が盗まれた金塊をめぐって出し抜こうとするマカロニ・ウエスタンで、小さな話がどんどん膨らみ、最後には一大叙事詩となる。
クリント・イーストウッド、イーライ・ウォーラック、リー・バン・クリーフの3人にとっても代表作となった。
そしてクライマックスに流れるモリコーネの超名曲「黄金のエクスタシー」は、メタリカのコンサートのオープニングで流れることでも知られている。
たぶん、最近の映画しか見たことがない人には、驚くばかりのクライマックスでは。
音楽に合わせて墓地を走り回るだけ、そして3すくみ状態の対決での顔のアップが延々続く。
かくいう僕も映画館で少なくとも5回、DVD購入して5回は見ている。

この映画のロケは、他のマカロニウエスタン同様、フランコ政権下のスペインで行われた。
有名なのは南スペインだが、この『続・夕陽のガンマン』のクライマックスとなるサッドヒルの円形墓地での対決シーンは、マドリード北方、ブルゴスの町の郊外にあるミランディージャ溪谷にスペイン軍を集めて造られた墓地で行われた。
撮影後は打ち捨てられ、土に埋もれて忘れられていった墓地だが、熱心なファンがそれを再発見。
やがて地元の有志たちを巻き込み、草の根運動で墓地を掘り返し始める。
やがてその動きは世界中のファンを動かし、50年の時を経てサッドヒルが蘇る。
本作はその過程を記録したドキュメンタリーだ。

本作には映画に関わった人々への貴重なインタビューも含まれている。何しろ50年前の映画で、生きている人は少ない。
映画を見ているときは「こんな墓地もあるんだ」と思っていたが、「円形墓地」というアイデアは創作で、古代ローマの円形劇場を模したというのは、さすがイタリア人の美術監督。
ドキュメンタリーのクライマックスは、50年を記念してサッドヒルで行われた『続・夕陽のガンマン』の記念上映。
そこでイーストウッドへのインタビュー映像が公開。
ファンたちによっては感無量だろう。

ということで、『続・夕陽のガンマン』ファンにはうれしいドキュメンタリーだが、逆にファンクラブの集まり以上に広がりがない出来でもある。
そこから広がって何かが見えてくる、というわけではない。
ないものねだりだろうが。★★☆


by mahaera | 2019-03-12 09:41 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』見てて辛いが力作ドキュメンタリー


かつて一世を風靡したといってもいい歌手、ホイットニー・ヒューストン。しかし多くの人にとっては、いつのまにか名前を聞かなくなり、そして亡くなっていたと、彼女の後半生についてはほとんど何も知らない。
このドキュメンタリーは、彼女の生涯を追うが、とくに印象に残ったのはピークから転げ落ちていく彼女の姿だ。
昨日紹介した『アリー/スター誕生』にも通じるが、
本作ではホイットニーがキャリアのピークを飾った1992年の映画『ボディガード』出演あたりを折り返し地点とし、
後半の転落人生を冷静に見つめている。

歌手である母シシー・ヒューストン
従姉妹であるディオンヌ・ワーウィック
名付け親はダーレン・ラヴというニュージャージーの音楽一家のもと、1963年に生まれたホイットニーは、幼い頃から夢は歌手になることだった。
モデルやバックコーラスを得て、
1983年にアリスタレコードの創業者クライブ・ディヴィスの目に止まり、1985年に満を持してデビュー。
シングルが7曲続けてチャート首位になり、ビートルズの6曲という記録を抜く。
日本でも洋楽アルバムチャート11週連続1位を記録
1991年のスーパーボウルでのアメリカ国家斉唱は、
未だ語り継がれるものになった。
1992年には主演映画『ボディガード』が公開され、
サントラ盤は世界で4200万枚を売り、
日本でも洋楽史上最高の280万枚が売れた。
そして主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は全米で14週連続1位という偉業を成し遂げた。
同年、歌手のボビー・ブラウンと結婚。
翌年、娘を出産する。ここが彼女の人生のピークだ。

もし恋愛映画なら、ふたりが出会い、結婚するまでを描くだろう。みんなが見たいのはそこまでだ。
しかし実際にはそのあとにはるかに長い山あり谷ありの人生が待っている。
ホイットニーが亡くなったは2012年。
ピークから20年も彼女の人生は続いていたが、たいていの人はデビューからピークまでの7年しか覚えていないだろう。

成功した彼女だが、その裏ではドラッグ依存が続いていた。
なぜ、彼女は自滅して行ったのか。
このドキュメンタリーでは、その姿を多くのインタビューやホームビデオを通じて描いていく。
彼女の転落人生は、前に見たエイミー・ワインハウスのドキュメンタリー『エイミー』とほとんど同じだ。
金と名声に群がる家族や友人たち。
身近なスタッフは、ホイットニーの家族である以外、
なんの能力もない人たち
だ。
兄や弟たちはそれを十分に生かし、
ホイットニーをドラッグ漬けにしていく。
そして母と離婚した父親が、ホイットニーの行動を管理していく。
幼い頃に母の浮気が原因で両親が離婚したホイットニーは、
父を愛していた。
しかし父親はホイットニーを利用し、多くの金を引き出すのが目的で、解雇されるとホイットニーを告訴している。

そして、妻の名声に嫉妬する夫
結婚当初はスーパースター同士の結婚だったが、
落ち目のボビーはDVも含め何かとホイットニーに辛く当たる。

かといってホイットニーも単なる可憐な女性ではない。
仕事がないときはカウチで寝たきりで、ほとんど育児放棄。
男関係、女関係もある。
かと思うとツアーやパーティーに小さな娘を連れ回し、
小学生ぐらいの年齢なのに娘はドラッグを覚え
高校生の時には自殺未遂をしてしまう。

もちろん彼女のためを思っているスタッフもいたが、
そんな人たちは物言える重要なポジションにはいない。
最終的に彼女の周りに残るのは、イエスマンか、
彼女の金が目当てのものばかり
だ。
最後に明かされる幼少期に受けた性的虐待も痛々しい。
そのせいで自分の性的な立ち位置を見失ったこともあるし、
ふつうの家族を知らずに育ったため、いい家庭を築けなかったのかもしれない。
本作はデビューからピークまではものすごくあっさりしており、ホイットニーの代表曲を聞きたいという人はアテが外れるだろう。
そして映画の約半分を占める、約20年のホイットニーの転落人生に疲れることだろう。

最後はほぼ一文無しになり、体型も崩れ、
声も出なくなり、ヤジが飛び交うステージをこなし、
ドラッグによる心臓発作で浴槽の中で溺死したホイットニー。
しかし、すばらしい時代もあっただけに、
成功とは、幸せとはなどと、いろいろ考えてしまう作品だ。

2012年、ホイットニーは48歳で亡くなる。
大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』との関連でいうと、ライブエイドのころはデビューアルバムが大ヒットし、
フレディが亡くなった翌年にキャリアのピークを迎えている。
ということで、『ボヘミアン・ラプソディ』のようなカタルシスを期待している方は、本作はやめといたほうがいい。『エイミー』が響いた方はOK。でも力作。

★★★☆


by mahaera | 2019-01-05 11:58 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『いろとりどりの親子』 “ふつう”とは違う子供を持つ親とその子の関係を描くドキュメンタリー



2018年/アメリカ

監督:レイチェル・ドレッツィン
出演:アンドリュー・ソロモン
配給:ロングライド
公開:11月17日 
劇場情報:新宿武蔵野館

もしあなたの子供が、世間一般の“ふつう”の子供でなかったとき、誰かが「交換してくれる」といったら交換しますか? 
たとえどんなに障害があっても、「取り替えたい」と思う人はいないと思うが、他の家族にはない苦労はあるはず。
本作は、そんな「親とは違う子供」がいる
家族6組を描いたドキュメンタリーだ。

本作には原作がある。
自分がゲイであることで親に受け入れてもらえなかった著者が、
同じような親子を探してインタビューを試みた本だ。
この本は読んでいないので映画との関連性がどの程度なのかはわからないが、著者もこのドキュメンタリーに登場する親子のうちの一組として登場する。
他にも登場するのは、ダウン症、自閉症、低身長症、LGBT、
そして罪を犯した子などを持つ親子だ。
Yahoo掲示板もそうだが、僕の周りの人たちも、障害を持っている子がいる家庭を見ると「かわいそう」と即座に反応する人もいる。
そして自分の家の子供は“まとも”でよかったとわざわざいういう。
しかし障害があろうがなかろうが、親子は他の人間では取り替えが効かない「特別な関係」だ。
世話をするのに疲れることもあるだろうが、
だからと言って他人の子供をもっと愛せるかというと、そうではないだろう。

映画の中でも語られるように、自分を責める親もいる。
妊娠していた時に飲んだアルコールがいけないのだろうか、発達に障害があるような過激な運動をしたかもしれない、、。
解答はないが、何に理由を求めずにはいられない。また、子供も自分を恥じている親の態度に敏感に反応する。

印象に残るのが低身長症の大会だ。ア
メリカ全土から低身長症の人たちだけが集まるミーティングで、
出席した人が今までのような疎外感を味合わずに済むシーン。
日本では今ではあまり見かけなくなったような気がするが、
僕が子供の頃はふつうにテレビに出ていたっけ。
今、低身長症の人をテレビや映画に出すと「差別」とされるが、それは何だか当たり障りなく、彼らを隠そうとしているだけにしか感じない。

本作では苦労話もあれば、あっけらかんとした関係の親子もあるように描かれる。
個人的にはいささか「美談」としてまとめているような感じもあり、もっと掘り下げ感もほしかったかも。
★★☆

by mahaera | 2018-11-29 16:40 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『エリック・クラプトン 12小節の人生』 E.C.のヒストリードキュメンタリー


2017年/イギリス

監督:リリ・フィニー・ザナック
出演:エリック・クラプトン、B.B.キング、ジョージ・ハリスン、パティ・ボイド
配給:ポニー・キャニオン
公開:11月23日よりTOHOシネマズシャンテほか

常人には波乱万丈の人生としか思えないギタリスト、
エリック・クラプトンの人生を時系列で追う
ヒストリー・ドキュメンタリー。
2時間を超える長尺だが、とくに仕掛けもなく続いていくので(それが人生だが)、ファン以外は最後はちと退屈になるかもしれない。

描かれている内容は、「エリック・クラプトン自伝」
読んだり、ファンでロック雑誌を読んだ人にはご存知だが、知らない人にはまさに波乱万丈。
ずっと母だと思っていた人は実はおばあちゃんで、
ある日、本当の母親が現れた少年時代。
ここでジョン・レノン同様、エリックは家族愛や女性愛をこじらせてしまい、のちの女性遍歴につながるのか。
その後、ヤードバーズ、ジョン・メイオール&ブルース・ブレイカーズ、クリームと、上り調子のギタリスト人生。「Clapton is God」の時代だ。
ジミヘンとの出会い、ホワイトアルバムへの参加
ブラインドフェイスと、音楽人生も丁寧に語られる。
アレサ・フランクリンのレコーディングへの参加など、
いいエピソードも。

中盤は一番の山場となる、親友ジョージの妻パティへの報われぬ愛だ。
夫がインドに傾倒し、女として相手にしてくれない不満。
パティはビートルズの妻たちの中でいちばんの美人だから当然だろうが、ジョージの家の近くに引っ越してきたエリックは、彼女がいながらパティにメロメロになる。
しかし彼女のために名曲「いとしのレイラ」を含むデレク&ドミノスの名盤を作り、それを聴かせてもなびかなかったからバンドやる気なくすのも如何なものか。
パティが好き、というより、手に入らないから求めているようにしか思えない。
その後、激しいヘロイン中毒に陥り、
廃人のような1年を送る。

長いクラプトンの人生にとってはまだ序盤のはずだが、
その後から現在まではけっこう駆け足。
ドラッグ中毒から回復し、ソロアルバム「461オーシャンブールバード」の成功から再びシーンに復帰するも、
今度はアルコール依存症になり、暴力的になったり、
女性に次から次へと手を出す。
ようやく1979年に念願叶ってパティと結婚するも、
エリックのアルコール依存症と女性依存症は治らず(同時に何年にもわたって複数の女性と交際し、子供までいた)、1989年パティはエリックのもとを去る。

その後、エリックは彼の子を産んだイタリア人女性と結婚し、子供コナーを愛するようになるが、コナーは1991年にニューヨークのホテルから転落死
失意のエリックはその辛さを音楽に向け、アルコール依存症も克服し、亡き息子のために「ティアーズ・イン・ヘブン」を書き上げ、「MTVアンプラグド」でグラミー賞を受賞する。

ソロになってからのアルバムごとの変化は、
ほとんど取り上げられず、後半がプライベート中心に
なってしまったのが残念。最後は家庭人となり、ようやく幸せが訪れるというエンディングだが、こう見ていくと彼の人生は、常に何かに依存していたのだなうと思う。
珍しい演奏シーンはないのと、肝心のクラプトン本人のインタビューが無いのが残念。深みが足りないので、できればスコセッシあたりに作って欲しかったかなあ。

★★★


by mahaera | 2018-11-25 12:46 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『華氏119』 中間選挙が迫る中、トランプは2期目の布石を置けるのか


マイケル・ムーア監督

11.2より公開中


日本でもアメリカの中間選挙のニュースが流れるこの頃、

ムーアがトランプ政権に挑むドキュメンタリーが公開された(アメリカでは公開済み)。

トランプ政権、もう任期の半分、2年も大統領務めているのね。

「就任当時は2年ももたない」と言われていたが、なんだかんだで頑張る。
政策は政治信条ではなく、支持者(一般人、財界、宗教界、ロシア)のバランスをうまくとるもので、それがどちらかに偏ることがないから、ロシアや北朝鮮と握手をし、ユダヤ教徒とキリスト教原理主義者の両方から献金を受け、イスラム教徒のサウジだって擁護する。


映画は、ヒラリーの勝利を誰もが確信していた2年前の大統領選から始まる。

最初、共和党の有力候補でさえなく、単なる賑やかしと思われていたトランプ。

しかし、共和党生え抜きの有力政治家たちを徹底的にこき下ろし、共和党を乗っ取ってしまった。

国民の多くは悪い冗談だろと思ったろう。

しかし、民主党もおかしかった。

党内で支持がさほど高くなかったヒラリーを候補に推したのだ。

これがそもそものまちがいだったとムーアは言う。

リベラルな民主党支持層が、金持ちの味方のヒラリーに嫌気がさす。

一方、金持ち支持の共和党に嫌気がさした共和党支持者たちもいて、彼らはトランプを支持した(トランプは金持ちだが)。


オバマの頃、民主党は議席の過半数を取れず政権を握ったので、富裕層や財界と妥協をしているうちに、保守に取り込まれてしまった。

つまり、ムーアによれば、民主党マインドを失ったヒラリーは、負けるべくしてトランプに負けたのだ。

それでも、投票数ではヒラリーの方が300万票もうわまっていた(一般投票で負けていたにもかかわらず勝利した大統領としては、20世紀ではジョージ・W・ブッシュに続く2人目)。

これがいつも民主党が負ける時に話題になる、「大統領選挙人制度」だ。

一票でも多かった州の票を総取りできるというシステムで、ゲームなら楽しいが、一票の格差は憲法違反級だが、毎回誰も正そうとしない。


今回、ストレートなトランプ批判なのかと思いきや、話は民主党批判、ミシガン州フリントの水質汚染問題、高校の銃乱射問題、草の根選挙運動などに飛ぶ。

もはや既成の政党はどこも同じで頼れない(共和党も民主党も大差ない)。

ならば、私たちが立ち上がらねば、ということなのだろう。

アメリカの民主主義を、アメリカ人たちはいま、自ら手放そうとしていると。

大統領選の一般投票率が50%台というから、投票率は日本の普通選挙と変わらない。

つまり、投票率50%で民主主義が成り立つのかという疑問も、そこにはある。

たとえば投票率50%で、そのうちの51%をとって選ばれても、全体の26%の支持しかないことになるからだ。


映画としてはやや散漫で、歯切れも悪いが、アメリカも日本も、

「政治家という人種はあまり変わらない」ということは再認識した。

日本で自民党が勝つのは野党がダメだからで、野党がダメなのは国民の不満を聞く気がないから。

そして国民も、自ら手にした権利を簡単に放棄していく。

何のために? いろいろなことを考えたくないために。

全体主義のほうが、居心地がいい人達のほうが、世の中多いからだろうな。そんなことを考えてしまう映画。

★★★


by mahaera | 2018-11-06 15:48 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ 』 F・ワイズマンによる多様性のスケッチ


2015年/アメリカ、フランス

監督:フレデリック・ワイズマン
配給:チャイルド・フィルム/ムヴィオラ
公開:10月20日よりシアターイメージフォーラムにて公開中

僕は知らなかったが、ジャクソンハイツは、ニューヨークのクイーンズ区の北西にあるエリア。
マンハッタンに近いながらも地代が安いということもあり、世界中からきた移民たちが暮らしている。
ここで話されている言語は、167あるという。
本作はそこに住む人々の営みを追ったドキュメンタリーだ。

監督は、アメリカのドキュメンタリー界の巨匠と言われるフレデリック・ワイズマン
1967年のデビュー作『チチカットフォーリーズ』で注目され、1995年の『アメリカン・パレエ・シアターの世界』は日本でも一般映画館で上映された。
ほとんどのドキュメンタリーが3時間前後の長編、ナレーション、劇伴音楽なしというスタイルで、ある意味、ふつうの人には非常に敷居が高い作品群だ。
劇映画と違い、きまった結末に向かって進行するわけではないドキュメンタリーを、音楽やナレーション、説明を排除し、それが3時間続くのだから、こちらもかなりの体力を要求される。しかしそこからしか見えてこないものもある。

本作でもカメラは、そこに住むさまざなま人種のコミュニティを、ただ、ただ、映していく。
とはいえ、ワンカメラではなくちゃんとカット割りや切り返しもあるので、映像的には一般映画とそう変わらない。
そして多種多様な人々のスケッチが続く。

たとえばユダヤ人のシナゴーグの集会スペースで討論しているのは、黒人だったりスペイン系だったりとあきらかにユダヤ人でない人々。彼らはゲイのグループだ。
ジャクソンハイツは、毎年レインボーパレードが行なわれているほど、ゲイコミュニテイがあるが、彼らが直面しているのはコミュニティの“高齢化”だ。

違法移民の集会では、メキシコからの必死の国境越えの話が語られる。
また、この街にも再開発の波が押し寄せ、家賃の値上げて閑散としたショッピングモールも映し出す。

印象的だったのは、アメリカ市民になろうとする移民に、ボランティアが“民主主義”と“基本的人権”の違いを教える場面だ。
自由に宗教を選べる、自由に発言できる、命が脅かされることがないと言う移民に、ボランティアは「アメリカは民主主義の国だが、それは民主主義ではなく基本的人権だ」と答える。
では、アメリカの国是とされている民主主義とは何か。
それは基本理念だが、それは果たされているかという、矛盾もここにある。だが、それでも基本は忘れてはならない。

ひとりひとりの努力なしに、民主主義を維持するのは難しい(日本だってそうだ)。
民主主義はひとりひとりに自主性を強要するかもしれない。
だが人任せなら、専制君主制か全体主義のほうが楽かもしれない
。ジャクソンハイツから浮かび上がってくるのは、ひとりひとりの積極性なしには、この自由な雰囲気が成り立たないということだろう。★★★
まあ、とにかく189分あるので、体調万全で本作に挑みましょう(笑)


by mahaera | 2018-10-22 13:52 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『世界で一番ゴッホを描いた男』中国のゴッホの複製画家が本物に会いに欧州へ



2016年/中国、オランダ

監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ
出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
公開:10月20日より新宿シネマカリテにて公開
公式ページ:http://chinas-van-goghs-movie.jp/

職人か芸術家か
その問いを自分に投げかける人は、世の中にたくさんいるだろう。
自分を表現するために何かを始め、それで飯が食えるようになっても、
いつのまにか単に技術を提供するだけになっている、
なんてこの世界、当たり前のことだ。
僕が住んでいる出版や編集の世界でもまったく同じ。
最初は“バイト仕事”ぐらいに感じていた、技術だけ提供する雇われ仕事が、いつのまにか生活を支えるようになっている。
このドキュメンタリーの主人公となる趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、その逆だ。
スタート地点が、生活を支えるための模写だった。
そして20年目にして、彼の心を動かす出来事が起きる。

中国深圳市にある大芬(ダーフェン)村
複製画の制作が世界の半分以上のシェアを占めるという、
世界最大の絵画村だ。
ここには複製画を描く職人たちの工房が軒を連ねている。
地方の農村から出稼ぎでここにやってきた趙小勇は、独学で絵を学び、ここでもう20年、ゴッホの複製画を描いている
工房には彼の妻や親戚もいるが、籍はまだ地方にあるので、
娘は遠く離れ、言葉もあまり通じない田舎の学校に通わなくてはならない。

本作の前半は、この大芬村で複製画を描いていく人々や、
その様子を映し出していく。
その中で次第に、ベテランの趙小勇がクローズアップされていく。
彼の夢はいつしか、“本物のゴッホ”を見ることだ。
本やテレビでしか見たことがない、ゴッホの絵。
自分が20年も描いてきたものの、本物が見たい。
仲間のひとりは、すでに複製画ではなく、“自分の”絵を描くようになっていた。そんな焦りもあったかもしれない。

後半は、お金をかき集めて、ついに念願の欧州へ旅立つ
趙小勇をカメラが追う。
長年、自分たちの描いた複製画がアムステルダムの画廊で
売られていると思っていた趙小勇だが、
着いてみるとそこはただのおみやげ屋だった
失望が顔に浮かぶ趙小勇。
さらに販売価格が、自分たちの売値の8倍と知って
やるせない気持ちにもなる。
複製画だが、誇りを持って描いてた自分なのに。

そして彼は、アムステルダムのゴッホ美術館に。
ゴッホの自画像に見入る趙小勇。
彼の旅は、アルル、サン・レミ、最後の地となったオーヴェル・シュル・オワーズと続く。
ゴッホの足跡を訪ねるその旅はまた、
趙小勇が自分を見つめ直す旅でもあった。
自分はいったい何者なのか。
本物と偽物の違いとは? 芸術家と職人の違いは? 
帰国後、彼はある決断をする。

複製しか描いたことがなく、自分の作品がない趙小勇が苦悩する姿は、滑稽でもあり、また私たちに真摯に訴えかけるものでもある。
彼が苦しむ姿は、“本物”だからだ。
これといった大きな仕掛けはない小品だが、
趙小勇の問いは多くの人が感じていること。
きっと観客の心にも、その問いは投げかけられることだろう。
★★★
(この記事は、旅行人のサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)

by mahaera | 2018-10-13 12:22 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『アラン・デュカス 宮廷のレストラン』世界最高のシェフが世界を飛び回り、味を探求する



2017年/フランス

監督:ジル・ドゥ・メストル
出演:アラン・デュカス
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公開:10月13日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館にて公開
公式ページ:http://ducasse-movie.jp/

食通なら、アラン・デュカスの名を知らないものはいないだろう。
かくいう僕は食通ではないので、アラン・デュカスのレストランに行ったことはないのだが(笑)、その名ぐらいは知っている。
アラン・デュカスは、33歳のときに史上最年少で3星シェフに輝いた名シェフだが、本作からわかるのは、彼は単なる料理人ではなく、経営能力に優れていることだ。

デュカスは現在、パリ、モナコ、ロンドンに3星レストランを3軒運営するだけでなく、他にも2星、1星レストランを世界各地に運営している。
各店はその店のシェフに任せており、
今や自分で料理を実際に作ることはほとんどない。
とはいえ、自分の名前をただ冠しただけのフランチャイズではなく、また、各店舗の料理が全く関係ないわけでもない。
彼のマインドは、各店舗で生きているのだ。

本作はヴェルサイユ宮殿内のレストランのオープンをクライマックスに、世界を飛び回り味を探求するデュカスの多忙な2年を、
90分に凝縮したドキュメンタリーだ。
コンパクトにちょうどいい長さにまとめられており、
新書一冊読んだぐらいの充実度はあるだろう。
ロンドン、リオ、フィリピン、中国と世界各地へ味と食材を求めて飛び回り、また各店舗の新メニューをチェックして回るデュカスだが、日本のシーンも比較的長く収められている。

まずは東京の銀座のシャネルにある「ベージュ アラン・デュカス東京」で新メニューのチェック。
それから京都へ行き、老舗の日本料理店、大衆的な食堂、デパ地下のスイーツ店などをチェック。
彼が食べるのは、何も高級店ばかりではない。
数百円の安いケーキだって買ってホテルの部屋でチェックし、なぜこの価格でこのくらいのものができるかも気になるのだ。
その合間には、NHKの情報番組にだって出演する

パリへ戻ったデュカスは、新レストランのための「王の食卓」メニューの開発プロジェクトに取り組む。
ルイ16世時代をイメージした食器のデザインと発注、
現代でも揃う食材、そしてただ古いメニューの再現だけではなく、
そこに現代風のアレンジも施す
そしてオープニングの日。
政界ともパイプがあるデュカスなので、
来場客の中には各国大使が何十人もいる。
舞台裏ものが大好きな僕としては、
修羅場とそれに続く達成感を感じている顔を見るだけでも幸せだ。
そしてまた、自分もあのような達成感を味わいたいと、
羨ましくもなるのだ。

たまには贅沢して、デュカスのレストランへ行ってみようかと、
映画を見終わったときは思うのだが(笑)。
★★★☆
(旅行人のサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)

by mahaera | 2018-10-11 11:00 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『黙ってピアノを弾いてくれ』 破天荒な音楽家チリー・ゴンザレスの軌跡を追う

2018年/ドイツ、イギリス

監督:フィリップ・ジエディッケ
出演:チリー・ゴンザレス、ピーチズ、トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)、ファイスト
配給:トランスフォーマー
公開:9月29日より渋谷シネ・クイントで公開中

かなりの音楽通でないと知らないかもしれないミュージシャン、
チリー・ゴンザレスを追うドキュメンタリー
もちろん、僕も彼を知らなかった。

カナダのモントリオール出身の彼は、
やがて活動の拠点をベルリンに移す。
パンク、ラップ、アバンギャルド‥、クラシックとジャズで培った技術を、過剰な自己演出でプレイし、アンダーグランドさぷんぷんの時代。
さまざまな音楽実験を繰り返し、90年代末期から2000年代にかけて、独自なスタイルの音楽を積み上げていく。
そんな騒乱の時代を過ぎた彼は、メロディーやハーモニーを重視する、ソロピアノの世界に回帰していく。

映画は、友人からは“ゴンゾ”と呼ばれるチリー・ゴンザレスの幼少時代から、地元でのバンド活動、そしてベルリン時代など、ほぼ時系列に追っていく。
インディーズ活動をしている時代のビデオもわりと残っており、映像が映し出されるが小さなライブハウスでのパフォーマンスは、何かが過剰すぎてインディーズ感バリバリ(笑)。
つまり音楽以外の要素が多すぎて、逆に音楽が埋没してしまうのだ。たぶん、音楽的な才能はあるのだが、それ以外にやりたいことが多すぎて、ガチャガチャとしてしまっている印象だ。ラップだけでなく、MCを含めてしゃべりすぎ(笑)

それが、だんだんと音楽以外の要素(誇大妄想狂的な自己演出)が取れてきて、シンプルな音楽に回帰していくと同時に、“聴きやすく”なっていく。
本作のハイライトとなるウイーン放送交響楽団との共演ステージでは、そうしたバランスがうまく保たれているのだ。
ゴンゾが今までコラボしてきたアーティストは、ファイスト、ジャーヴィス・コッカー、ピーチズ、ドレイク、ダフト・パンクなどで、実際、僕はほとんど聴かないジャンルなので、ゴンゾの凄さはわからないし、あまり自分のタイプの音楽ではない。
ただ、まあ、こいうタイプの音楽をする人もいるんだと、興味は感じた。
そして現在のソロピアノなら、ちょっと聴いてみたい気もした。
 ★★☆


by mahaera | 2018-10-04 11:58 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『太陽の塔』 日本の経済発展を象徴する万博会場に現れた“異物”


2018年/日本
ドキュメンタリー

監督:関根光才
配給:パルコ
公開:9月29日より渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテほか

エンタメ映画もいいが、たまにはこうした知的好奇心をくすぐるドキュメンタリーも観てみてはどうだろう。

現在、一般公開されている太陽の塔の内部だが、
この塔が建てられたのはほぼ半世紀前の1970年
日本中を熱気で包んだイベント「日本万国博覧会」の中心に
造られた祝祭空間「お祭り広場」の中心に、
この高さ70mの塔が建てられた。
広場の天井を突き破り、空に向かって両手を広げるこの塔は、
「進歩と調和」という陽性でポジティブな万博のテーマとは異質の、何か原初的なものも感じさせた。

本作は、その太陽の塔製作にまつわるエピソードから、
作者の岡本太郎という人物、
そして29人の識者たちへのインタビューなどを通して、
この塔が一体なんなのかを追うドキュメンタリーだ。
単なる「太陽の塔メイキング」ではなく、
この塔が何から影響を受け、何に影響を与えたのかという概念的なことにも踏み込んでいく。

ご存知かもしれないが、太陽の塔には、
過去、現在、未来という3つの顔があり、
内部には生物の進化の歴史を辿る「生命の木」がある。
“高度成長”で浮かれ騒ぐ日本で、
“発展”の陰でなかったことにされていく”過去”。
それに異を唱えるかのような、強烈な異物感がこの塔にはある。
それは、未来志向の万博に打ち込まれたくさびのようでもあり、またそれひとつが宇宙の如く存在している。

面白いのは、多様な専門家へのインタビューで、
みな「それぞれの太陽の塔」像を持っていることだろう。
単なる建築物ではなく、“象徴”ととらえているのだ。
それが、みなそれぞれがバラバラのイメージで、興味深い。
★★★
by mahaera | 2018-10-03 11:04 | 映画のはなし | Comments(0)