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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『チャーチル ノルマンディーの決断』こちらもチャーチルのもうひとつの顔


アカデミー賞にノミネートされ、日本人が手がけたチャーチルの特殊メイクも話題になった映画『ウインストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』の裏に隠れて話題にはならなかった、もう1本のチャーチル映画が日本でも公開中。
まあ、あちらが製作費3000万ドルに対し、こちらは1/3の1000万ドルでキャスト、スタッフとも小粒。
チャーチルを演じるブライアン・コックスは知られた名脇役だが、一般にはあまり知られておらず、こちらでは特殊メイクなしでチャーチルを演じている。

『ヒトラーから世界を救った男』はダンケルク撤退から抗戦を訴えるまでの強いチャーチルだが、こちらはそれから数年後、ノルマンディー上陸作戦の数日前になり、作戦に反対しているチャーチルを描いている。
なぜ、そこまでチャーチルは上陸作戦に反対したか。
映画では、第一次世界大戦時、海軍大臣だったチャーチルが計画したガリポリ上陸作戦が失敗したトラウマを抱えていると描いている。

ガリポリはトルコのダーダネルス海峡(トロイがある辺)のヨーロッパ側の半島で、敗北寸前のトルコにダメージを与えようとイギリス、オーストラリア&ニュージーランド軍が大規模な上陸作戦を決行。
しかしトルコ軍を甘く見ていた連合軍は、猛烈な反攻に遭い、4万5000人の死者を出して作戦は失敗。
この時、トルコ軍の指揮を取っていたのがムスタファ・ケマル大佐で、彼はこの戦いにより一躍国民的英雄になり、のちにトルコ共和国を建国し、アタチュルクと呼ばれるように。
一方、チャーチルは失脚して大臣の任を解かれる。
この戦いは映画『誓い』(メル・ギブソン初期の名作)でも描かれている。

さて、本作だが、過去のトラウマから逃れられない老人をブライアン・コックスが熱演。
アメリカの参戦により、すでに戦争の主導権は米ソに移り、決定権がなくなってしまったイギリスの没落をチャーチルが体現しているともいえる。
もはやイギリスがいくら反対しようが、戦争の大勢には影響がないのだ。
戦争の行方を決めるのは、アメリカのアイゼンハワー将軍であり(のちの大統領)、戦後の超大国アメリカの時代も予感させている。

そんな中で、ただただ反対するチャーチルは、「老害」として邪険に扱われて、さらにそれが彼のイライラを増幅させる。
「俺はもう必要ない人間なのか」と。
まあ、最後はそこから立ち直って国民を鼓舞するスピーチをするのだが。
それが映画として面白いかというと、演出力のせいか単調で、スケール感も乏しくテレビ映画のような感じがしなくもない。
ほとんどのシーンを、チャーチルと妻、その周りとの会話で押し切っているので、映画的な広がりがないのだ。
そのあたりもテレビ映画的。
やはり先日公開された『ウインストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のほうが、出来としては上だ。
★★

by mahaera | 2018-08-24 09:18 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』 アカデミー賞2部門受賞


本年度のアカデミー賞主演男優賞とメイクアップ賞の2部門受賞
ということからもわかる通り、
ゲイリー・オールドマン演じるチャーチルを見るための映画だ。
実際のチャーチルは、イギリスでは国民的英雄だが、
世界史的には手放しで褒められない人物。
ただし、映画は忠実に描くのではなくドラマとしてみせる媒体だ。
これはあくまで、「決断を迫られる国家指導者」という
「ドラマ」なのだ。

拙著「子供に教える世界史」にも書いたが、ヒトラーが台頭する頃はイギリスやアメリカでも、親ナチス的な人々が多かった。
今から想像もつかないが、当時は共産主義の前に資本主義社会は危機に瀕しており、対抗するにはファシズムが有効な手段と思われていたのだ(議会制民主主義は放っておくと共産党に乗っ取られると、恐れる人が多かった)。
なので、それを押さえる手段としてヒトラーの増長を許したのだが、その時のイギリスの首相がチェンバレン
彼は「宥和政策」でヒトラーの、
オーストリア併合やチェコスロバキアの解体も認めてしまった。
その結果、ヒトラーの野心は留まらず、
第二次世界大戦が始まってしまう。

当時、野党の保守党だったチャーチルは、
戦時の挙国一致内閣の首相に選ばれる。
彼の支持層は、自身の保守党ではなく、敵の労働党という
ねじれの中、チャーチルは戦争続行を推し進める。
映画は、北フランスとでのイギリス軍の敗北からチェンバレンが首相を退任し、代わりにチャーチルが首相になり、ドイツの停戦案を蹴って戦争続行を国会で通すまでの4週間を描いたものだ。
映画のほとんどは、チャーチルに寄り添っているので、
戦闘シーンはほんのちょこっと。
ひたすら政治の駆け引きが描かれるのは、
スピルバーグの『リンカーン』と似ている。
つまり、派手なアクションを期待するとかなり違う。
そちらは昨年公開の『ダンケルク』をご覧いただくとして
(『ダンケルク』を見ていると二倍面白くなる)、
「有事の際の政治家があるべき姿」に興味ある方向けなのだ。

「リンカーン」でもそうだが、
まず政治家は同じ党内の反対派とまず戦わなければならない。
隙あらば失脚させようとするものばかりだから。
そのやりとりをオールドマンは、
チャーチルになりきってリアリティを持って演じている。
本当のチャーチルは誰も知らないが、
こうであったろうと観客が思えば成功だ。
歴史好きには、内閣にも親ヒトラー派が多かったことや、
毎週恒例の国王との謁見シーンが興味深い。
イギリスでは、首相が毎週国王に議会報告をする習慣があるが、
そこでの国王(当時は『英国王のスピーチ』の主人公でもある
ジョージ6世)とのやりとりが、時間を追うにつれて変化し、
信頼を経ていく様子が面白い。

実際のチャーチルは負の面もあるが、これは伝記ではないので、
ドラマを4週間に切り取ったのは正解。
ただし、歴史過ぎには面白いが、正直、ドラマとしては地味なのと、背景を知るための説明的な場面が多い(これは仕方がないことだが)のが、よりドラマチックさを削ぐことも否めない。
だから、アカデミー賞の結果も作品ではなく、チャーチルを演じた
オールドマン関連だけになってしまったのだろうなあ。
★★★

by mahaera | 2018-04-03 12:12 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』傑作群を生んだ、画家ゴーギャンのタヒチ時代を描く



2017
年/フランス

監督:エドゥアルド・デルック
出演:ヴァンサン・カッセル、ツイー・アダムズ、マリック・ジディ
配給:プレシディオ
公開:127日よりBunkamura ル・シネマ他にて公開中

1891年のパリ、都会暮らしにゴーギャンは絶望し、まだ見ぬタヒチ行きを仲間たちに説く。
しかし同意するものは誰もおらず、また妻子もついていかず、
ゴーギャンはひとりタヒチへと旅立った。
タヒチでもパペーテの町は彼が望むような場所ではなく、
ゴーギャンはさらに奥地へと向かう。
そこで彼は村の娘テハアマナを見初め、妻に。
テハアマナはゴーギャンのミューズとなり、ゴーギャンの創作意欲を湧き立たせ、
後に知られる多くの傑作を生み出すが、幸せは長くは続かず、
テハアマナも文明に毒されていった。

映画で触れられていないが、物語が始まるのは
かつてゴーギャンが共同生活をしたこともある、ゴッホが亡くなった翌年。
ゴーギャンは、生涯に二度タヒチに滞在しているが、
本作はその第一回目となる1891-1893年の旅を描いたものだ。

今でこそ、私たちは後にゴーギャンが評価されたことを知っているが、
当時はほぼ無名で、たまに絵が売れるくらい。
パトロンもいないから、日雇い労働でもしなければ、
とてもではないが生活を維持することはできなかった。
タヒチに渡ってもそれは同じで、絵の具を買うお金にも困っている様子が描かれている。

芸術を追い求めるゴーギャンにとって、タヒチは楽園でもあり、
また生活を考えると、貧乏という点ではパリと変わらなかった。
いくら文明を拒否しても、文明がなければゴーギャンが生きていけないという矛盾。
木彫りを村の青年に教えるゴーギャンだが、そうすると青年は観光客が買いそうな同じものばかり作るようになる。
それを怒るゴーギャンだが、日銭を稼ぐために木彫りを道端で売る彼自身とどう違うのだろう。
もちろん彼の絵画は一級の芸術品だが、それとて誰にも売れなければ、
誰にも評価されていないということにもなる。

タヒチの海が楽園というより、ゴーギャンの逃避の場としてしか見えないのは、
映画を見ながら、アートと生活という、芸術家には大昔からついて回った問題が、
妙に生々しく見えてしまったからかもしれない。
サマセット・モームの『月と六ペンス』をまた読みたくなった。

映画自体が面白いかというと、それほどでもなく、
ヴァンサン・カッセルの熱演はわかるのだが、
映画のゴーギャン自体に魅力を感じられなかったのが残念。
★★☆
(旅行人のWEBサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)

by mahaera | 2018-02-08 11:52 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ジャコメッティ 最後の肖像』 天才でも創作に行き詰ることがある



ジャコメッティ 最後の肖像
1月8日よりTOHOシネマズ シャンテにて公開中

日本でも展覧会が好評だった、
細長い人の彫刻で知られるジャコメッティ。
舞台は1964年、すでに有名になって
個展も開かれている晩年のジャコメッティ。
その彼に肖像画のモデルを依頼された
主人公ロード(アメリカ人作家)が、「2日ですむから」
と言われてアトリエに行くが、なかなか作品が完成せず18日間も
かかってしまう(映画はロードの回想録を基にした実話)。
そのため物語の大半はアトリエが舞台で、
そこに妻のアネット、ジャコメッティの弟のディエゴ、
そしてジャコメッティのミューズ的存在の娼婦カロリーヌ
が現れては消え、ジャコメッティはなかなか創作に集中できない。
モデルは椅子に座ってじっとしているだけだから、
そうした人間模様を観察する。

意外だったは、成功者なのに、
ジャコメッティの家もアトリエもみすぼらしいこと。
お金には無頓着なのかケチなのか、
必要ないものは欲しくないのか。
生活も質素といえば質素。
かといって高尚な職人気質ってわけでもない。
まあ、偏屈といえば偏屈だ。
観客は凡人側である主人公の気分だから、
最初は天才であるジャコメッティに気を使い、
早く完成してくれるように注意を払うが、
そのうち「コイツ、本当に完成させる気があるんだろうか」と不安になってくる。

モノづくりが難しいのは始めと終わりで、
特に仕事の依頼でもなく始めたものは、
“完成しない作品”になりがちだ。
自分で締め切りが切れないからだ。
人の創作風景を見るのはなかなか面白い。
映画は低予算の小作品で舞台にもできそうだ。
地味といえば地味な作品だが、きちんと作ってあるので創作好きな人には、興味を持って見れるはず。
「最後の肖像」というのは、彼が描いた最後の肖像画だから。
ジャコメッティにジェフリー・ラッシュ。
海賊バルボッサの人ね。主人公のモデルにアーミー・ハマー。
監督は、俳優のスタンリー・トゥッチ。


by mahaera | 2018-01-20 11:33 | 映画のはなし | Comments(0)