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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『イカリエ-XB1 デジタル・リマスター版』 1963年のチェコ製SF映画のリバイバル



1963年/チェコスロバキア

監督:インドゥジヒ・ポラーク
出演:ズデニェク・シュチェパーネク、フランチシェク・スモリーク
配給:コピアポア・フィルム
公開:5月19日より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開

ちょっと珍しい、1963年のチェコスロバキア製SF映画
のリバイバル上映。ポーランドのSF作家
スタニスワフ・レムの小説「マゼラン星雲」が原作で、
22世紀後半、アルファ・ケンタウリ惑星系を目指して、
生命の調査の旅に出た宇宙船イカリエ-XB1を描いたもの。

時代的には「ウルトラマン」や「スタートレック」が
始まるちょっと前だけど、宇宙船内のデザインは、
のちの「2001年宇宙の旅」にもつながる、未来感。
装飾を廃し、直線で構成される現代建築の影響下のセットは、
今見ると失われた未来を見ているようだ。
しかしスペースオペラのSF映画を見て育った人にとっては、
非常に地味な映画だろう。だって宇宙人や怪獣も出てこないし、
大スペクタクルもない。CGは当然ないが、
ミニチュアや合成以外の特撮もほとんどない。
なので、俳優のセリフや演技で、話を運ぶしかない。やはり地味だ。

しかし、僕が子供の頃のSFってこんなものだったような気がする。
SFは子供向けでなく、大人向けで、
そして科学と哲学がせめぎ合うものだった

派手な爆発とか、撃ち合いとかもなく、
淡々と未知なものを解明していくのが主流。
本作も、イカリエ-XB1 がアルファ・ケンタウリに着くまでの
船内の様子と人間模様を描くだけだ。
大きな事件は2つ。不審な漂流船を発見するのと、
ダークスターの影響で船内の人々の精神や身体が病んでいく
という2つのエピソードだ。
危機は危機だが、派手さはない。
現在の文明批判的なものも少しは含まれるが、
それほど深追いもしない。

では、つまらないのかというと、そういうわけではない。
セットのディティールとか、結構気になって見てしまう。
そして、「あの頃は、こんな未来感を持っていたのか」と、
図鑑を見ているような気になるのだ。
45分のSFテレビドラマを2本見たような気分。
ただ、疲れている時に見たら、寝るかも
『惑星ソラリス』がそうだった(笑)
★☆


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by mahaera | 2018-05-17 11:18 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 ダメ人間たちによる悲喜劇だが愛おしい



GW中に上映している映画、大作もあるが僕が一番良かった映画は、実は「レディプレイヤー1」でも「インフィニティウオー」でもなく、「パティケイク$」と本作。
特に本作は、「好き」というだけでなく、
映画としての出来も非常に高い。

1994年に起きた女子フィギュアスケートの
「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を、ある年齢以上の方なら覚えて覚えているだろう。
しかし、ほとんどの人はうろ覚えだろう。
映画でも語られているように、中にはライバルのトーニャが直接暴行したと思っている人もいるかもしれない。

本作は、その事件を核に、トーニャの半生を本人や元夫、
母親などの証言をもとに、そしてさらに本人たちの意見を
役者がカメラ目線で語ったり、最後には本人たちの
インタビュー映像を流したりと、面白い距離感でつづる悲喜劇だ。
監督は隠れた名作『ラース、とその彼女』クレイグ・ギレスビー
今回も、笑いと哀しみのブレンド感が絶妙
登場人物のあまりのゲスさに笑いながらも、
そうしか生きられなかった貧富によるアメリカの階級社会も感じる。

1970年、トーニャはポートランドの貧しい白人家庭の家に生まれる。
父親は母ラヴォナの4番目の夫だったが、
トーニャが幼いうちに家を出て行った。
トーニャは4歳でスケートを始め、激しい罵倒や虐待の中で
育ちながらも、その才能を開花させていく。
貧しいながらも母ラヴォナはトーニャを教室に通わせていたが、
それは貧乏から抜け出るためだった。
15歳の時、トーニャはジェフと出会い、やがて結婚。
ジェフもまた暴力を振るうダメ夫だった。
1991年にトーニャはアメリカ人で初めてトリプルアクセルに成功し、たちまち脚光を浴び、翌年、オリンピックに出場。
しかし、“育ち”の壁はなかなか越えられない。
彼女はアメリカ人が求める、洗練されたスポーツ選手ではなかった。
そして、1994年、選考会を前にライバルである
ナンシー・ケリガンが暴漢に襲われる。

トーニャもその母親も、夫も、とにかく出てくる人間がクズばかりで、笑える(そして本人にその自覚が全くない)。
「毒親」という言葉があるが、この母親はまさにその典型だ。
トーニャを言葉や暴力で支配するが、
娘は自分のおかげでスターになったと思っている。
強烈な印象を残すこの母親を演じるアリソン・ジャネイは、
本作でゴールデングローブ助演女優賞を受賞したが、当然だろう。
夫のジェフも典型的なホワイトトラッシュ根性が染みついている男で、
気が弱いくせに都合が悪くなると暴力を振るうDV男。
そして降られるとストーカー化する粘着男。
演じるのはウインターソルジャーことセバスチャン・スタン
しかしトーニャも暴力で対抗する。
トーニャも傲慢で、自己中心的だ。痛いバカップルだ。

そして、その3人に後半加わるのが、最も痛い男
ジェフの友人でトーニャのボディガードとなる、ショーン。
いい歳で親と同居しているニートだが、自称、国家の対テロ対策顧問を務めたことがあるスペシャリスト(実は一度だけ記事を寄稿したことがある程度)。
自分を百倍ぐらいに大きく評価し、彼に雇われた男によって
ナンシー・ケリガンは選考会会場で殴打されてしまう。
痛い。とっても痛い。

で、こうしたゲスな人々を見て笑ってはいるものの、彼らを少しも嫌いになれない。
むしろその破壊力に、すました社会が引っ掻き回されるのを「やれ!やれ!」と応援したくなる。
もうこんな環境で育ったら、こうなるでしょう。
彼らのしていることは本当にゲスだが、そんな底辺がないことにしている社会もどうなのと。
トーニャがスケート界から追放されるシーンの頃には、
どんなにゲスでもそこまでしなくてもという気持ちになっている。
彼女が唯一、人に誇れるものを奪っていいものなのかと。

実際のトーニャは、2000年代に入り、恋人に暴行して逮捕されたり、プロボクサーに転向したり、格闘家になったりもするなど、相変わらず波乱に満ちたイタい人ぶりを見せているが、必死に自分の人生を生きていることには変わりない。
もちろん、映画は映画で、実際とは違うようだが、
笑って楽しみながらも、いろいろ考えさせてくれる作品だ。
★★★★

追記
・主演のマーゴット・ロビーの顔がヴァン・ダムに似ているのが気になった

・フリートウッド・マック「ザ・チェンイン」、シカゴ「長い夜」などの往年のロックの選曲が、いちいちはまった

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by mahaera | 2018-05-12 12:17 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『レディ・プレイヤー1』 スピルバーグが何を見せてくれるか楽しみで行った



先日、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
公開されたばかりのスピ作品。
実はあの作品は、本作のポストプロダクションが1年弱かかるので、スピがその合間に「今、撮らねば」とキャスティングから撮影、編集、公開まで10か月ほどで仕上げた
もちろんその合間に、本作の仕事も並行していたわけで、年老いてもそのエネルギーには恐れ入る。

さて、公開からしばらく経っているので、
この『レディ・プレイヤー1』、もう見た方、
レビューを読んだことがあるという人も多いかと思う。
舞台は、気候変動やらで世界が荒廃している2045年。
人々はスラム街で暮らし、「オアシス」と呼ばれるゲームの中の
仮想現実の中に浸っていた。
主人公はパーシヴァルというアバター名でゲーム内世界で活躍し、
オアシスの創始者で故人のハリデーが残した
イースターエッグを仲間たちと次々と見つけていく。
全部見つけてクリアすると、
オアシスの所有権が得られるというのだ。
しかし、No.2の企業101も同じものを狙い、
現実世界でも主人公に危機が迫る。。。

原作は2011年に発表された小説「ゲームウォーズ」
こうストーリーを書いてしまうと、「よくある」感じだ。
「荒廃した未来」という設定があるが、映画でもその理由や
どんな世界になっているかは、ほとんど説明なし。
“未来”ということになっているが、それほど未来という感じが
しないのも、これは現在の話でもあるということなのだろう。
それより見せたいのは、ゲーム内世界での映像だ。

主人公は最終的には、仲間たちの協力を得て悪を倒し、ゲームに勝つ。どんでん返しもないし、安心して子供と見られるファミリームービーだ(ゲーム内でいくらアバターが倒されても、現実の死ではない)。
もちろん、会社をまたいで多くのキャラが登場するのは、
ビデオゲームをほとんどやったことがない僕でも楽しめる。
最後の大バトルのところで、森崎ウィンの決め台詞は、
本作で一番上がったところ
だ。
これは本作を見たほとんどの人が、アガるシーンだろう。

しかし、多くの人が違和感を感じるのは、エンディングの
「ゲームはほどほどに」「仮想現実もいいけど、
現実世界があるからこそ」
というメッセージ。
教科書的な感じで、ややしらける
少なくとも映画を見ている人たちは、
リアルではない仮想現実を楽しみに来ているはずだし、
それはゲームでも小説でも映画でも海外旅行でも、
娯楽と呼ばれるものは、たいていそうだ。
恋愛だってそうかもしれない。
しかし、大人は子供には言えないよね。
「リアルはつまらない」と。

しかし実際に、リアルは辛いだけの人もいるだろう。
辛いだけでなくても、別な世界があることは、息抜きになる。
会社ではしがないサラリーマンでも、
セッションバーでは人気のギター弾きなんか、
リアルの世界で仮想現実を発揮しているのに近いかも。
しかし映画では、そこまでその問題は深く追求しない。
むしろ、仮想現実を提供する側の、
作り手の問題
の方が見ていて引っかかる。

この映画の欠点でもあるのだが、
主人公の少年や若者たちのキャラがあまり魅力的ではない。
もちろん僕の年齢もあるのだが、見終わって一番印象に残るのは、
マーク・ライアンス演じる、ゲームの創始者のハリデーだ。
夢の世界を作り上げ、ゲーマーたちからは崇拝されるが、
リアルではコミュ力がなく、女性に打ち明けることもできなかった男。
ゲームでは創造主で神に近い存在は、映画におけるスピと同じだ。
成し遂げはしたもの、後悔を残して死んでいく。
スピも映画の世界では神だが、リアルの世界ではきっと後悔も
あったのだうか、などと想像してしまう。

テーマ的にはゆるい作だが、映画オタクには嬉しいセリフやシーンがちりばめられているので、細部は楽しめる。
まあ、ツッコミどころや、不満もあるけれど。
2Dと4DXで鑑賞したが、3D感はそれほどなく
(それだけ2Dでも画面が完成されていたということ)、
もしかしてIMAXが鑑賞に最適な環境かも。
★★★

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by mahaera | 2018-05-11 12:45 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『サバービコン 仮面を被った街』 コーエン兄弟節は楽しめるが演出が消化不良



舞台は1950年末のアメリカの郊外の街、サバービコン。
都会から逃れてきた白人ばかりの郊外住宅地だが、
そこに黒人一家が引っ越してくる。
住民たちは、あからさまな嫌がらせや反対運動を始めるが、
それは背景。
その隣の家に住むロッジ一家にある日強盗が入り、
ロッジ(マット・デイモン)の妻(ジュリアン・ムーア)が命を落とす。
犯人が捕まらないまま時が経つが、ロッジの息子ニッキーは、
その理由を知り、命を狙われることに。。。

少年が命を狙われ、周囲は悪人ばかり、どうやって助かるかという、ヒッチコック風スリラーが話の骨格だが、
脚本のコーエン兄弟にかかると、
悪党どもは残虐だがお互いを信用せず、
つまらないことから自滅していく愚か者たちばかり。
ブラックコメディとも言えるのだが、
死人もバタバタ出ていくので、笑ってばかりとも言えない。
名作『ファーゴ』に近い雰囲気とも言える。

ただし監督は社会派のジョージ・クルーニー。
いつの間にか6作目の監督作品だが、見た目は立派な家族も、
一皮むけば、、、と、人種問題も入れ込んだりしているのだが、
どうもそれがうまく噛み合っていない。
社会派がとってつけたようにしか感じられないのが、
もったいない。言いたいことはわかるんだが、
ここは素直に少年の目から見たスリラーにしたほうがよかったかも。
隣の家の黒人一家の受難エピソードが、
映画を見ていてノイズになってしまうのだ。

一人二役のジュリアン・ムーアの、普通だけどどこかおかしい演技は、「キングスマン/ゴールデンサークル」に通じ、その異常さを楽しめた。
★★☆

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by mahaera | 2018-05-10 10:11 | 映画のはなし | Comments(0)

映画レビュー『バーフバリ伝説誕生』 GW中、DVDで見る

みなさま、GW後半、いかがお過ごしでしょうか?
こちら特に予定も入れず、粛々と家仕事。
せめて、レンタルDVDを借りて2時間の娯楽を自分へのサービスに。
昨夜観たのは、2時間半のインド映画『バーフバリ伝説誕生』。
大ヒット作の、前編の方。
近年は洗練されたとはいえ、そこはインド映画。
ハリウッド映画では見ないような演出やCGの使い方に、はまってしまう。
半分だけ見て寝ようかなー、と思っていたけど、最後まで見切ってしまい、夜中の3時半に、「バーフバリ!バーフバリ!」と大声で叫びたい気分で眠れず(笑)
仕事中なんで、要点をかいつまんで書くと以下のとおり。
ということで、早く続きが見たい!

・最初はラジニ似のこいつが主人公?と思ったが、後半に向けてどんどん格好よくなっていく
・主人公を襲う女剣士をミュージカルの音楽に乗りながら、次々と服を脱がせて化粧までさせてしまう、ありえないけど楽しいシーン。タマンナー、美人すぎ。
・悪人は最初から悪人
・見せ場となるシーンは、何度もリピートさせるしつこさがハマる
・途中で大胆に主人公の話に切り替わり、そのまま前編が終わってしまう。しかも「おい、ここで?」
・悪人が主人公に首切られてしまうところ、不謹慎にも笑ってしまう
・主人公はマッチョだが、母親思い
・カッタッパはいったい何歳?
ということで「バーフバリ!バーフバリ!」が頭の中で渦巻く中、昨夜は寝ました(笑)

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by mahaera | 2018-05-06 17:10 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ダンガル きっと、つよくなる』 安定したクオリティで、楽しんで感動も!



2016年


監督 ニテーシュ・シュワーリー
出演 アーミル・カーン
公開 2018年4月6日より、全国公開中

■ストーリー
レスリングで、国のチャンピオンにまで上り詰めたマハヴィル。
引退した彼の夢は、自分の息子に金メダルを取らすことだった。
しかし生まれてきたのは女の子たちばかり。
夢を諦めかけたマハヴィルだが、ある日、娘のギータとバビータが
近所の男の子たちを喧嘩で負かしたことから、新たな希望が生まれる。
二人への特訓が始まった。
厳しい訓練に反抗する二人だが、やがて父親の深い愛情を知り、
また勝利の喜びも知り、前へ向かって進み出す。
数年後、国内の名だたる大会に出場している2人の姿があった。
やがてギータは国の代表選手に選ばれるが、
父とは次第に疎遠になっていく。。。

■レビュー

すでに観た方もいらっしゃるでしょう。
地元の映画館では今週いっぱいなので、急いで行ってきた。
ストーリーは単純。
もと国の代表レスラーだった父が、自分が取れなかった
金メダルの夢を子供に託そうとするが、生まれてきたのは女の子たちばかり。
そこで、父はスパルタ教育で娘たちを強くし、
一流選手に育て上げるという話で、しかも実話を元にしている。

最初は馬鹿にしていた村人たちも、
娘たちが勝ち進みだすと賞賛のまなざしに変わり、
反抗していた娘たちも勝利の喜びと父の深い愛情を知り、
前に向かって進み出す。

インド映画でおなじみのミュージカルシーンはないが、
時折挟み込まれる歌が、ストーリーを補完(覚えやすい曲ばかり)。
成長した長女が都会に出て、親離れしていくところは、
こっちは完全にオヤジの気持ちで、時に涙腺決壊。
「頑張れば夢は叶う」という超ポジティブストーリーも、
2時間半の夢を観客に見せてくれる、
映画館の暗闇のマジックを最大限に生かしている。
後ろを振り返ったら、スクリーンを見つめている
観客の顔がみな、幸せそうだったもの。

人権問題に関心を示しているアーミル・カーンだが、
本作はインドの女性が置かれている社会環境にも問題提起をしている。
成長しても、そのまま結婚して家庭に入り、
家事労働するしかない一生を強いられているインドの女性たち。
本作は、自分で自分の道を切り開くことが、
インドの女性たちにとっても夢ではないという、
メッセージも込められているのだ。

映画館を出た時は、頭の中では主題歌の
「ダンガル!ダンガル!」がぐるぐると回っていた。
★★★☆

PS.
映画とは関係ないところで気づいたのは、
2010年のデリーで行われたコモンウェルス大会がハイライトになるのだが、インドにおいてはオリンピックよりも重要な大会ということ。
確かにあの時、インド人、大騒ぎしていたし。
あと、インド国歌を初めてちゃんと聞いたこと。
それとインドでは、官僚は怠け者で仕事をしないとみんなが思っていることだなあ。
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by mahaera | 2018-04-26 11:24 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『パティケイク$』 郊外や家庭の閉塞感から、ラップの力で抜け出そうとする主人公



2017年/アメリカ

監督:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド、ブリジット・エヴァレット、シッダルタ・ダナンジェイ
配給:カルチャヴィル×GEM Partners
公開:4月27日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか

知っている俳優もスタッフもおらず、まったく前知識なく観て、
意外な拾い物となった作品だ。

主人公は太ったその容姿から“ダンボ”とあだ名されている
23歳のパティ。
住んでいるのは、電車に乗れば1時間もせずにマンハッタンに行けるニュージャージーだが、その距離は永遠に縮まらない。
寂れた郊外の街では、みなそこから出て行こうとしないから、
子供の頃からの顔見知りだ。
ただし小学校の頃にいじめられていれば、
大人になっても軽く見られる。
車椅子生活の祖母と、かつてはロック歌手を目指していたが今は酒びたりの母親と3人暮らしのパティには、愛してくれる者もいない。
そして働かなければ、生きてはいけない。
そんな彼女の救いは、ラップミュージックだ。
薬屋の店員でインド系のジェリ、無口なギター弾きのバスタードと、パティはグループを組み、オーディションに挑む。

たった僅かな距離なのに、郊外の住人は
住んでいる町から出ようとしない。
1時間の旅でも、まるで海外旅行に行くのと同じくらいレアだ。
地元で働き、地元で結婚し、地元で生涯を終える。
そんな郊外の閉塞感、そしてそこに本当に住んでいそうな人々(美男美女は登場しない)、人生の反面教師にしかならないダメな大人達、そんな空気を吸いながら、パティは育ってきた。
このままだったら、いずれ酒びたりの毎日になるだろう。
しかし何かを諦めるには、23歳はまだ若すぎる

パティの夢は「スターになること」。
むちゃくちゃ漠然とした夢だ。しかし、それが精一杯なのだ。
そしてそれは母が果たせなかった夢でもあり、母が酒と男に逃避し、パティに辛く当たる理由でもある。
僕は、ラップミュージックはほとんど聞かないが、
本作は結構楽しめた。
「サタディナイトフィーバー」や「SRサイタマノラッパー」のような、都会はそこにあるのに届かない郊外の閉塞、
それを打破する(解放される)手段として音楽があり、
ジャンルに関係なく共感できるからだ。

脚本にご都合主義や、演出のベタさ加減とか洗練されてはいない部分はあるものの、初期作品やインディーズに通じる、初々しさがこの作品の中にはある。
また、ほぼ無名の俳優たちの熱量も高く、いい味を出している。
ラップもインド人が歌うとそこだけインド映画のサントラぽくなるなぁとか、やはりニュージャージーだとブルース・スプリングスティーンがかかるなとか、母親役の人がオジー・オズボーンに似ているなとか、細かく気になって書きたくなることは他にもあるが、長くなるので(笑)。
愛すべき小品だ。
★★★☆

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by mahaera | 2018-04-20 13:05 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『さよなら、僕のマンハッタン』 マーク・ウエブ監督、NYを舞台にした青年の成長物語



監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー、ジェフ・ブリッジス、ケイト・ベッキンセール、ピアース・ブロスナン
配給:ロングライド
公開:4月14日より丸の内ピカデリー他にて公開

大学を出たけれど、バイトをしながら、
ニューヨークのロウアーイーストサイドで暮らす青年。
父はかつて作家を目指していたが、今は編集者として成功。
母は精神を病みがちで家に閉じこもりがち。
アッパーウエストサイドに住むリッチな実家から出てはみたものの、すでに刺激的なニューヨークは90年代で終わり、
自分の時代のニューヨークは、
ただ先人たちの過去の栄光を眺めているだけで退屈。

日本の20代男子のような、典型的な文系青年が主人公だが、
日本と違って彼が一切ゲームをしないところが大きな違いか。
そして女子に対して、積極的にアタックするも違い(笑)。
そんな彼が、つまらないと思っていた人生が、父の浮気を目撃したところから、変わっていく。
父役もピアース・ブロスナンだからイケメンだが、
その愛人役もケイト・ベッキンセールだから美人だ。
そして、隣に引っ越してきた謎のやさぐれオヤジのジェフ・ブリッジスの助言も、彼を勇気づける。
父の愛人の尾行を続けるうちに、主人公に変化が訪れていく。

全編、マンハッタンロケで、
遅れてきた70年代ニューシネマのような味わい。
それに映画の原題で、テーマソングでもあるサイモンとガーファンクルの「ニューヨークの少年」が、その雰囲気に拍車をかける。
最後は、両親を「父」「母」ではなく、愛も失敗も後悔もある一人の人間であることに気がつくことにより、青年は成長していく。
『(500日)のサマー』の監督による、おそらく監督自身を投影した青春映画だ。

欠点は、あまり主人公に魅力が感じられなかったこと。
なんだかイライラしてしまうのは、もう気持ちが
主人公の両親世代の気持ちに行ってしまっているためね。
きっと子供は、親だって人生いろいろなことに後悔しているなんて、思いもよらないのだろう。
親は親というキャラなのだ。

★★☆
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by mahaera | 2018-04-12 10:19 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『トレイン・ミッション』 リストラされたニーソンが、列車の中で大ピンチ!



今やオッさんアクションの第一人者となったリーアム・ニーソン
「シンドラーのリスト」のようなドラマや文芸映画に出るのをやめ(『沈黙』ぐらい?)、すっかりB級アクションまっしぐらで、ブルース・ウィリス、ニコラス・ケイジの後に続く存在に。
ただウィリスほどマッチョやコメディ感はなく、ケイジほどエキセントリックでもない、普通の家庭にいそうなのがキャラだ。
本作は『アンノウン』『フライト・ゲーム』『ラン・オールナイト』ジャウマ・コレット=セラ監督となんと4作目のタッグで、
よほど相性が合うのだろうなあ。
単なるクライムアクションではなく、
凝ったプロットが用意されており、ストーリーも面白かった。

映画の2/3は、ニューヨークの
グランドセントラル駅発の郊外電車の中

『ガール・オン・ザ・トレイン』や『恋におちて』のあの電車だ。
かつて刑事だったニーソンだが、今は保険屋。
娘の大学費用や家のローンに追われているが、
突然クビの宣告を受ける
俺はもう60だし、再就職も厳しい。
何とかと頼むが、君はいらないと冷たい返事。
呆然と落ち込むニーソン。
時間を潰し、何年も乗り慣れた同じ便の列車に乗り込む。
そこへ一人の女が彼の前に座り、ある提案をする。
それはこの列車の乗客から、ある人物を探し出せば、
10万ドル(約1000万円)をくれる
というのだ。
しかも、その申し出を断れないように、
いくつもの罠が彼に仕掛けられていた。。。

警官も買収し、市政さえ左右する大きな犯罪組織。
殺人事件の目撃者を消すために、
元刑事のニーソンに目撃者の割り出しを依頼したのだ。
ニーソンは途中で重大さに気づくが、誰にも知らせることはできないし、家族にも危険が及ぶしかないと孤軍奮闘。
しかし、目撃者を見つけ出せば、その人物は確実に消される
さらに自身の身の保証もない。
追い詰めらた男が、どうその状況を脱するか。
しかもタイムリミットは、終着駅に着くまで。
走行する列車という限定された舞台は、
ヒッチコック的な面白さも。

飽きることがない展開なのだが、最後はちょっと盛り過ぎて、
「そんな大掛かりの犯罪の割には、ニーソンひとりに頼りすぎ」
とちょっと、盛り疲れになる。
そしてCG感バリバリの列車大暴走もちょっと興ざめ。
うーん、こんなに派手派手にして、
逆に安っぽい感じになってしまったのが残念。。。
途中までは、面白かったのだけれど。
でも、脚本に冴えはあるので、
平均点以上では絶対にあるのだが。惜しい! 
★★★

グランドセントラル駅発のメトロノース線の記事は


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by mahaera | 2018-04-01 23:06 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『シェイプ・オブ・ウォーター』 本年度、アカデミー作品賞受賞作




いうまでもなく、今年のアカデミー作品賞受賞作品
今まで、知る人ぞ知る、怪獣大好きデル・トロ監督が、
こうして評価されたことはうれしい。
97年の「ミミック」や2001年の「デビルズ・バックボーン」の頃は、ジャンル映画の監督で一生終わるのかなと思っていたが、
やはり作家性が花開いたのは2006年の「パンズ・ラビリンス」かな。
これが今の所の彼の最高傑作だ。

さて、公開からだいぶ経っているので、今更僕が書くことも少ないのだが、ちょっと映画のメインテーマからそれたところを。
主人公と対照的に描かれている、この映画の悪役、
マイケル・シャノン演じるストリックランドの描写が、
結構丹念に描かれていて、下手をすると主人公よりも感情移入しやすい。
単なる悪役ならば、冷酷な部分だけを描写すればいいが、
ストーリーには不要な彼の家庭も描かれている。
50年代の典型的な幸せなアメリカンの中流階級。
問題のない、明るい光が当たっている家庭で、
ストリックランドだけが異質だ。
彼は家庭では居場所がないように見える。
一方、研究所では、一見彼が支配者のようだ。
他のものを震え上がらせることができるが、
役職的にはそんなに上ではない。

ストリックランドが、新車を買いに行くシーンも印象的だ。
あのシーンがあるからこそ、彼の哀れな小物感がにじみ出る。
そして、上官である将軍に認められないことを訴える
「いつになったら、まとも(decent)な男として認めてくれるのか!」というセリフも、人間味が出ている。
相手を従えることでしか、関係が築けない、
マチズモに支配された哀れな男。
主人公と半魚人の愛の形と対照的だ。

そして、ラスト。ここで観客は、
物語の語り手が隣人のジャイルズであることに気づく
つまり映画は、全編を通して、これはジャイルズの語る話であることを、ここで再確認させらるのだ。
半魚人と結ばれるイライザの姿は、
ジャイルスが目撃したことではない。
つまりあれは想像とも取れる。
映画の手法で良くある「信じられない語り手」だ。
「パンズ・ラビリンス」はいい映画だが、
エンディングは悲しいもので、
観客に十分なカタルシスを与えることができなかった。
それを受けて、ハッピーな気持ちで劇場を出られるよう、
「語り手」にハッピーエンディングを語らせたと思うのは、うがった見方だろうか。


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by mahaera | 2018-03-31 12:45 | 映画のはなし | Comments(0)