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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『世界で一番ゴッホを描いた男』中国のゴッホの複製画家が本物に会いに欧州へ



2016年/中国、オランダ

監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ
出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
公開:10月20日より新宿シネマカリテにて公開
公式ページ:http://chinas-van-goghs-movie.jp/

職人か芸術家か
その問いを自分に投げかける人は、世の中にたくさんいるだろう。
自分を表現するために何かを始め、それで飯が食えるようになっても、
いつのまにか単に技術を提供するだけになっている、
なんてこの世界、当たり前のことだ。
僕が住んでいる出版や編集の世界でもまったく同じ。
最初は“バイト仕事”ぐらいに感じていた、技術だけ提供する雇われ仕事が、いつのまにか生活を支えるようになっている。
このドキュメンタリーの主人公となる趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、その逆だ。
スタート地点が、生活を支えるための模写だった。
そして20年目にして、彼の心を動かす出来事が起きる。

中国深圳市にある大芬(ダーフェン)村
複製画の制作が世界の半分以上のシェアを占めるという、
世界最大の絵画村だ。
ここには複製画を描く職人たちの工房が軒を連ねている。
地方の農村から出稼ぎでここにやってきた趙小勇は、独学で絵を学び、ここでもう20年、ゴッホの複製画を描いている
工房には彼の妻や親戚もいるが、籍はまだ地方にあるので、
娘は遠く離れ、言葉もあまり通じない田舎の学校に通わなくてはならない。

本作の前半は、この大芬村で複製画を描いていく人々や、
その様子を映し出していく。
その中で次第に、ベテランの趙小勇がクローズアップされていく。
彼の夢はいつしか、“本物のゴッホ”を見ることだ。
本やテレビでしか見たことがない、ゴッホの絵。
自分が20年も描いてきたものの、本物が見たい。
仲間のひとりは、すでに複製画ではなく、“自分の”絵を描くようになっていた。そんな焦りもあったかもしれない。

後半は、お金をかき集めて、ついに念願の欧州へ旅立つ
趙小勇をカメラが追う。
長年、自分たちの描いた複製画がアムステルダムの画廊で
売られていると思っていた趙小勇だが、
着いてみるとそこはただのおみやげ屋だった
失望が顔に浮かぶ趙小勇。
さらに販売価格が、自分たちの売値の8倍と知って
やるせない気持ちにもなる。
複製画だが、誇りを持って描いてた自分なのに。

そして彼は、アムステルダムのゴッホ美術館に。
ゴッホの自画像に見入る趙小勇。
彼の旅は、アルル、サン・レミ、最後の地となったオーヴェル・シュル・オワーズと続く。
ゴッホの足跡を訪ねるその旅はまた、
趙小勇が自分を見つめ直す旅でもあった。
自分はいったい何者なのか。
本物と偽物の違いとは? 芸術家と職人の違いは? 
帰国後、彼はある決断をする。

複製しか描いたことがなく、自分の作品がない趙小勇が苦悩する姿は、滑稽でもあり、また私たちに真摯に訴えかけるものでもある。
彼が苦しむ姿は、“本物”だからだ。
これといった大きな仕掛けはない小品だが、
趙小勇の問いは多くの人が感じていること。
きっと観客の心にも、その問いは投げかけられることだろう。
★★★
(この記事は、旅行人のサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)

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by mahaera | 2018-10-13 12:22 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『アラン・デュカス 宮廷のレストラン』世界最高のシェフが世界を飛び回り、味を探求する



2017年/フランス

監督:ジル・ドゥ・メストル
出演:アラン・デュカス
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公開:10月13日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館にて公開
公式ページ:http://ducasse-movie.jp/

食通なら、アラン・デュカスの名を知らないものはいないだろう。
かくいう僕は食通ではないので、アラン・デュカスのレストランに行ったことはないのだが(笑)、その名ぐらいは知っている。
アラン・デュカスは、33歳のときに史上最年少で3星シェフに輝いた名シェフだが、本作からわかるのは、彼は単なる料理人ではなく、経営能力に優れていることだ。

デュカスは現在、パリ、モナコ、ロンドンに3星レストランを3軒運営するだけでなく、他にも2星、1星レストランを世界各地に運営している。
各店はその店のシェフに任せており、
今や自分で料理を実際に作ることはほとんどない。
とはいえ、自分の名前をただ冠しただけのフランチャイズではなく、また、各店舗の料理が全く関係ないわけでもない。
彼のマインドは、各店舗で生きているのだ。

本作はヴェルサイユ宮殿内のレストランのオープンをクライマックスに、世界を飛び回り味を探求するデュカスの多忙な2年を、
90分に凝縮したドキュメンタリーだ。
コンパクトにちょうどいい長さにまとめられており、
新書一冊読んだぐらいの充実度はあるだろう。
ロンドン、リオ、フィリピン、中国と世界各地へ味と食材を求めて飛び回り、また各店舗の新メニューをチェックして回るデュカスだが、日本のシーンも比較的長く収められている。

まずは東京の銀座のシャネルにある「ベージュ アラン・デュカス東京」で新メニューのチェック。
それから京都へ行き、老舗の日本料理店、大衆的な食堂、デパ地下のスイーツ店などをチェック。
彼が食べるのは、何も高級店ばかりではない。
数百円の安いケーキだって買ってホテルの部屋でチェックし、なぜこの価格でこのくらいのものができるかも気になるのだ。
その合間には、NHKの情報番組にだって出演する

パリへ戻ったデュカスは、新レストランのための「王の食卓」メニューの開発プロジェクトに取り組む。
ルイ16世時代をイメージした食器のデザインと発注、
現代でも揃う食材、そしてただ古いメニューの再現だけではなく、
そこに現代風のアレンジも施す
そしてオープニングの日。
政界ともパイプがあるデュカスなので、
来場客の中には各国大使が何十人もいる。
舞台裏ものが大好きな僕としては、
修羅場とそれに続く達成感を感じている顔を見るだけでも幸せだ。
そしてまた、自分もあのような達成感を味わいたいと、
羨ましくもなるのだ。

たまには贅沢して、デュカスのレストランへ行ってみようかと、
映画を見終わったときは思うのだが(笑)。
★★★☆
(旅行人のサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)

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by mahaera | 2018-10-11 11:00 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『LBJ ケネディの意志を継いだ男』  人気のない大統領の人間性に迫る、伝記映画


2016年/アメリカ

監督:ロブ・ライナー
出演:ウディ・ハレルソン、マイケル・スタール=デヴィッド、リチャード・ジェンキンス、ジェニファー・ジェイソン・リー
配給:ツイン
公開:10月6日より新宿シネマカリテほかにて上映中

20世紀のアメリカ大統領で、リンドン・B・ジョンソンよりも人気がなく評価も低い大統領は、ニクソンぐらいだろう。
どうしてもケネディと比較されしまうからだ。
ジョンソンは、ケネディ政権の副大統領で、
ケネディの暗殺により自動的に大統領に昇格。
続いて、次回の選挙でも、
ケネディの死への同情票が集まり、大統領に当選する。
しかし、ベトナム戦争を拡大し、
国内で反戦運動が高まる1969年に任期を終了。
本作は、そんなジョンソンを主人公にした、
初の映画かもしれない。

映画は1960年、テキサス出身のジョンソンが、
民主党大統領の予備選挙で、ケネディに負けたところから始まる。
国会内では調整役として、民主党内では大きな力を持つジョンソンだが、国民の人気はいまひとつ。
若くて家柄もいいケネディのような、華やかさがなかった。
貧しい南部の農民として生まれ、実力でのし上がってきたジョンソンは、192cmという大柄な容貌もあり、
「粗野で口が悪いテキサスのカウボーイ」として見られていた。
また、実際に押しが強く、弱いものいじめをし、自分を大きく見せるところがあった。
しかし一方で、いざとなると自信を喪失する気弱な面もあった。

意を決して大統領に立候補したジョンソンだが、敗北。
そんなジョンソンをケネディは、副大統領として迎え入れる。
ジョンソンを党内の敵として残すより、
味方に取り込んでしまうためだ。
そしてジョンソンはケネディが弱い南部に地盤がある。
副大統領は、ただの“飾り”と知りつつもジョンソンはそれを受けるが、ケネディのブレーンからは徹底的に無視される。
とくに弟のロバート・ケネディからは。

映画が転換を迎えるのは、もちろんケネディ暗殺により、
ジョンソンが大統領になる下りだ。
歴史にある、大統領専用機内での、
大統領宣誓式も再現されている。
ケネディとは考えが異なるジョンソンだけに、ケネディが集めたアメリカ最高峰のブレーン達は、みな彼の元を離れようとする。
しかし意外にもジョンソンはケネディの意志を継ぎ、彼の政策を実現させようとする。
その柱となるのが「公民権法」だ。

「公民権法」はジョンソン最大の功績と言っていい。
1960年代初頭のアメリカは、平等を求める黒人と差別主義者の白人との間で、大いに混乱していた。
ボブ・ディラン「風に吹かれて」を歌い、
キング牧師ワシントン大行進で有名なスピーチをし、
大学に黒人が入学するために州兵が出動していた。
南部では、バスだろうがレストランだろうが、水飲み場だって、
白人とそれ以外が隔離されていた。
その撤廃のための法律を通したのがジョンソンだった。

南部出身で、黒人のメイドを使っていたジョンソンだが、彼の黒人差別反対の大きな理由になったのは、そのメイドでもある。
映画でも語られるが、ジョンソンは彼女の料理を愛し、南部遊説の時にも帯同したが、黒人ということでメイドは同じホテルの宿泊を拒否される。
そのことが忘れられなかったという。

ジョンソンを演じるのは、ウディ・ハレルソン
彼が主人公なのだから、当然、観客に好かれるように、人間味あふれる人物に描かれているが、実際はどうだったのか。
映画は、『スタンド・バイ・ミー』などの職人監督ロブ・ライナーらしく、手堅く、平均的にまとめられている。
僕個人としては、歴史の一こまが映像化されているだけで、興味深く楽しめたが。
★★★

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by mahaera | 2018-10-08 11:39 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『イコライザー2』 デンゼル演じる人気キャラが戻ってきたが、はたしてその出来は?


昼はタクシー運転手、しかし彼には別の顔があった。。。
元CIAの腕利きの殺し屋ロバート・マッコールは、
妻を亡くしたショックから、組織を引退し、
今は身分を隠し目立たないように暮している。
そんな彼が、ロシア人娼婦を救うため、
ロシアンマフィアを壊滅させたのが第1作。
娼婦が半殺しにさせられたとはいえ、組織を壊滅させるほどの大量殺人で返すのだから、倍どころか100倍返しだが、見ている間はそれがスカッとする。
まず、相手が同情の余地が1ミリもないほど、悪い
そして、耐える主人公を徹底的にバカにする。
「ナメていた相手が、実は殺人マシーンでした」
ジャンルの王道なので、面白くないはずがない。

さて、スマッシュヒットとなった前作に続いて、
早くも登場した2作目。監督は前作に続き、
アクション映画職人のアントン・フークワ
アメリカでは、『マンマ・ミーア!ヒア・ウイ・ゴー』と
同じ週に封切られ、それを上回る大ヒットを記録している。

しかし本作は、2作目にして、
早くも続編の課題に突き当たってしまった。
より強い敵のインフレーション、脇役キャラの増加、
サブキャラのファミリー化などだ。
もともと孤独で人とのコミュニケーションを嫌う男が主人公なのに、本作では進んで人助けする男になっており、また近くの少年を息子のように面倒を見ている。
敵はかつての同業者たちで、町のチンピラではない。
何回も繰り返されているような設定だが、そこに新味はない。
前作で魅力的だった、主人公の、どこか興味を引く世捨て人的な要素はないのだ。

これは、トム・クルーズの『アウトロー』の2作目でも感じたが、ヒット作の主人公が、2作目でより親しみのあるキャラに変更するパターン。しかし、観客はそんなものは求めていない。

いい点がないわけではない。
ハリケーンが襲ってきて無人の街での、最後の死闘は迫力がある(そして主人公は丸腰で、そこらにあるもので敵を倒す)。
また、敵の家族の前で、お互いの気持ちを隠してにらみ合う緊張感のあたりはうまいのだが、敵がどうも小粒で。これは悪役に、デンゼルとバランスの取れる役者を配して欲しかったかな。

ということで、ふつうの出来、ということは期待ハズレだったかな。
★★☆

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by mahaera | 2018-10-06 11:55 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『運命は踊る』 イスラエルの兵士とその両親をめぐる運命のダンス


Foxtrot
2017年

監督:サミュエル・マオズ
出演:リオール・アシュケナージー、サラ・アドラー、ヨナタン・シライ
配給:ビターズ・エンド
公開:9月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中
公式サイト:www.bitters.co.jp/foxtrot/

●ストーリー

ミハエルとダフナ夫妻の元に、息子ヨナタンの戦死を告げる軍の役人がやってくる。やがて、息子の死は誤報だったと告げられるが、安堵するダフナと対照的にミハエルは怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すように要求する。一方、ヨナタンはたまにしか車が通らない検問所で、その日も間延びした時間を過ごしていた。しかし、彼の運命を狂わす事件が起きる。

●レビュー

映画は三幕構成になっている。一幕目は、息子の死を知らされた夫婦の悲劇。妻はショックのあまり倒れ、夫はお役所的な軍人の態度にイライラする。やがて息子の死が誤報であったことがわかった時、夫の感情は爆発し、息子をすぐに戦場から呼び戻すようにと言う。

場面が変わり、二幕目は国境付近の検問所で働く息子、ヨナタンの日常が描かれる。時おり、車やラクダが通るだけの、のんびりとした検問所。しかしいつ、何が起こるかわからない緊張が時おり走る。実際に戦闘が行われているわけではないが、かといって安全なわけではない。そんな場所は世界中のいたるところにあるのだろう。緊張の中の退屈、あるいは退屈の中の緊張。そんな警備の兵士たちの日常が、リアルに描かれる。兵士といっても、専門職ではなく徴兵された二十代の若者たちだから、そこらにいる若者たちと大して変わらない。だらだらとした日常だが、突発的に起こった“ある事件に”、観客はハッとさせられる。兵士は人を殺すこともできるし、殺される危険性もあるのだと。

三幕目は、ふたたび夫婦の姿が描かれる。そこで出てくるのが、映画の原題でもある「フォックストロット」だ。これは前右左後とステップを踏み、元の位置に戻るダンスのステップだが、「人は結局は運命には逆らえない」という宿命を象徴しているかのようだ。この三部構成の“悲劇”は、日頃私たちが忘れようとしている“運命”というものを考えさせてくれる。

非常に理知的に、きっちりと作られた作品だが、逆にそのあたりが鼻につくという人もいるかもしれない。監督・脚本のサミュエル・マオズは、実際にイスラエル軍に従軍し、1982年のレバノン侵攻にも参加している。この侵攻時に、パレスチナ人難民の大量虐殺事件が起きた。先日公開された『判決、ふたつの希望』でも語られ、その時の従軍経験を映画にしたアリ・フォルマン監督の傑作『戦場でワルツを』でも描かれている。さて、そうした作品群に比べると、「優等生が作った作品」ぽい感じがするが、まあそれは監督のスタイルなのだろう。僕は、あまり知ることがないイスラエル人兵士の日常、そして宗教離れしているイスラエル知識人の日常をしることが出来たのも、興味深かった。
★★★

●関連情報

2017年第74回ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した、イスラエルのサミュエル・マオズ監督の長編2作目。マオズ監督は長編1作目の『レバノン』も同映画祭でグランプリ(金獅子賞)を受賞しており、いまや国際的な作家といえよう。

(旅行人のサイト「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました)


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by mahaera | 2018-10-05 10:43 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『クワイエット・プレイス』 よくできたスリラーで、演出もうまい。家族映画としても成立


監督:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー
公開中

人類が何者かの襲来により、ほとんど死滅している世界。
生き残った家族がスーパーで生活必需品を物色しているが、
一切音を立てない。
実は音に反応する何者かがいて、
少しでも音を立てたら襲ってくるのだ。
手話を使い、足音も立てずに暮らす一家。
しかし、妻エヴリンは、出産の時期を迎えていた。。。

アメリカで意外なヒットを飛ばしたホラー。
ホラーと言っても、心霊ものではなく、
「エイリアン」的なSFスリラーだ。
登場人物は夫婦とその二人の子供の家族のみで、
ストーリーは進行する。
設定はいたってシンプル。「音を立てたら即死」というルールがあり、「いかに音を立てずに暮らしていくか」が描かれるが、
その設定を動かすためにイレギュラーなできごとが主人公一家を次々に襲う。
しかし、音を立てない生活をずっと見ている観客もかなりのストレスだから(観客席も音を立てないように静まりかえっている)、危機が訪れると逆にそこから解放されたりもする。

よりによって主人公は出産間近だし、子供達のちょっとしたミスで音が出たり、誰かを救うために音を出して何者かをおびき寄せたりと、ハラハラドキドキの作り方がうまい。
そして、当然ながら劇伴の音楽はほぼないので、ホラー映画にありがちな、突然現れてジャーン!みたいな驚ろかしショックもない。
そのあたりは正統派というか、
上品にサスペンスを積み上げていく

その一方で、家族のドラマもきちんと描かれている
子供を守って育てていかないとならないという両親への重圧。
これもよくできていて、演技力のある俳優がやれば、きちんと説得力があるものだと感心。
監督と夫役のジョン・クラシンスキーはテレビ中心の活躍なので日本ではあまり馴染みがないが、本作でブレイクするだろう。
そして実生活でも結婚している妻役のエミリー・ブラントは、やはりうまい。
とくに感情を押し殺す役はうまいだけに、本作でも彼女の耐える演技はぴったり。
僕は父親のほうに感情移入してしまっていたが。
4人それぞれが、他の3人に対してどんな感情を持っているか、見ていてきちんとわかるのは、演出力のうまさだ。

ネタバレになるので、ストーリーがあまり書けないのが残念だが、『IT』と並び、一流スタッフがきちんと作った上品なホラーで、安っぽいところはまったくない。
残酷なシーンはあまりないので、
ふだんホラーを見ない人にもおすすめだ。
★★★☆

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by mahaera | 2018-10-02 08:28 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『スカイスクレイパー』 ドウェイン・ジョンソン主演の、“全部のせ丼”アクション映画


2018年/アメリカ

監督:ローソン・マーシャル・サーバー
出演:ドウェイン・ジョンソン、ネーヴ・キャンベル
配給:東宝東和
公開:9月21日より全国公開中

2018年のアクション・エンタメ映画界は、「ザ・ロック」こと、
ドウェイン・ジョンソンの快進撃の年だった。
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』ではゲーム世界で活躍、
『ランペイジ 巨獣大乱闘』ではモンスターと戦い、
今回は超高層ビルで“ダイ・ハード”する。


ボーンシリーズなどのリアルアクションとは違い、
80年代シュワルツネッガー直系の、“ありえねー”系アクション
もちろん、トムクルのような本人の体を張ったアクションでもない。
しかし、たまにはそんなジャンクでゆるいエンタメも見たくなる。

本作は、簡単に言えば『タワーリング・インフェルノ』と
『ダイ・ハード』を足して、ドウェイン・ジョンソンで割ったもの
悪人たちに占拠された超高層ビルで火災発生、
そこに取り残された家族を救うという個人的な理由でヒーローが単身乗り込み、
悪人たちをやっつけて家族を救うというそれだけの話だ。
なので、主人公も家族も死なないし、悪人はみな死ぬことはわかっている
そこに大火災、裏切り、サスペンス、決闘が盛り込まれた、
“てんや”でいえばオールスター丼、全部のせ丼だ。

まあ、それでも、お父さんが家族のために頑張るという設定で、
誰しも共感できるようになっているのがズルい。
ミッションでも愛する女性でも、世界を救うためでもない。
家族の命を救いたい、ただそれ一点なのでわかりやすい。
一方、悪人たちは徹底して悪く、
ヒーローに成敗されてもかわいそうだとは微塵にも感じない。

ということで、適度にハラハラして、適度にユーモアがあり、適
度にカタルシスを感じる、というデートムービーだ。
確実に映画史には残らないが。

アクションスターとしてのドウェイン・ジョンソンだが、
今までのアクションヒーローたちと違うのは、
“頼もしい父親”役も演じられるところだろうな。
あと、女子ウケもいいだろう。そこが好き嫌いが分かれるところだろうが、
今後もそうした役回りが回ってきそうだ。
★★★

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by mahaera | 2018-09-28 09:27 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ヒトラーと戦った22日間』 まだまだ知らなかったことがある。実話の映画化

「『ヒトラーと戦った22日間』予告編」の画像検索結果

2018年/ロシア、ドイツ、リトアニア、ポーランド
監督:コンスタンチン・ハベンスキー
出演:コンスタンチン・ハベンスキー、クリストファー・ランバート
配給:ファインフィルムズ
公開:9月8日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館にて公開中
公式ページ http://www.finefilms.co.jp/sobibor/

最近、ナチス政権下のユダヤ人もの、「ヒトラー」を入れ込んだ邦題が多いのが気になるが、本作にもヒトラーは出てこない。
そして本作は収容所ものには珍しい、ロシア映画。
監督・脚本・主演をこなすのは、ロジア人のコンスタンチン・ハベンスキーだ。
というのも、実話に基づいた本作だが、反乱のリーダーとなるサーシャが、ユダヤ系ソ連兵だったからだ。

1943年9月、ポーランドにあるソビボル絶滅収容所に、ソ連兵のサーシャが送られてくる。
ほとんどのユダヤ人はすぐにガス室に送られて殺されてしまうが、作業に必要なユダヤ人だけは生かされていた。
彼らは脱出計画を練っていたが、強力なリーダーがいない。
そこにウクライナで脱走経験のあるサーシャが来たので、一部のものたちが彼をリーダーにして反乱計画を練る。
それはSS将校たちを殺し、全員が脱走するというものだった。
そして22日後の10月14日、反乱が決行される。

有名なアウシュヴィッツ=ビルケナウ以外にも、多くのユダヤ人強制収容所があった。
勉強不足だったが、強制労働を目的とした強制収容所のほかに、最初から殺戮だけを目的とした絶滅収容所があった。
そのうち、本作の舞台となるソビボルでは16万7000人が殺されているという。
殺害が目的だから、列車で着いたユダヤ人のうち、生かされるのは死者の遺品の整理やそれを直して再利用できる職人などごくわずか。
仕事ができない子供は問答無用で殺された。
そしてソビボルなど、多くの絶滅収容所はソ連軍が迫ると、証拠隠滅のために残っていたユダヤ人もろとも、なかった状態にされた。

本作の題材となった事件は、珍しく、収容されていたユダヤ人たちがやられっぱなしではなく、反乱を起こしたことだ。
機を見て、11人のナチス将校を殺して武器を奪い、600名中、360名が脱走に成功。
そんな歴史があったことは、あまり知られていないのでは。
映画は、決してうまい出来ではなく、前半はナチスの囚人いじめがネチネチ描かれ、まったり感がある。
ただし、脱走当日になると展開はスピーディに。結末を知らなかったので、ハラハラしながら見る。
将校をひとりひとり呼び出して、ナイフで殺害するくだりは、「殺っちゃってください」と心の中で拍手喝采(映画なので、ナチス軍人は良心の欠片もない極悪人として描かれている)。

脱走後の顛末は、字幕で書かれるが、脱走した360人のうち200人は、すぐに追っ手の親衛隊によって殺され、逃げられなかった240人も全員殺され、残った160人のうちの100人余りは、民間のポーランド人に殺されたり密告によって命を落としたという。
当時のポーランドでは、反ユダヤ主義も根強く、自分たちがナチスに占領されながらも、そこから逃げてきたユダヤ人を殺したりしていたというのも陰惨な話だ。
また、映画では触れられていないが、看守などにはドイツ人ではなく、反共産のウクライナ人が多く使われており、彼らもまた残虐だったという。
弱いものがより弱いものをいじめるという構図はやりきれない。

本作の主人公であるサーシャも、脱出後にはパルチザンに加わり戦ったが、戦後はドイツの収容所にいたとして「外患罪(外国の捕虜になった者は半共産思想に感染しているという言い分)」により、ソ連の強制収容所に入れられたこともあるという数奇な運命を辿っている。

ということで、人間ドラマとしては薄い出来だが、こうしたことがあったという事実を知るにはいいテキストかもしれない。★★★
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by mahaera | 2018-09-15 11:22 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『判決、ふたつの希望』  国家、民族の対立や憎しみを乗り越えるには


レバノンに行ったことがある。1996年のことだ。
内戦は終わっていたが、あちこちの建物は壊れ、銃弾の穴が開き、薬莢が落ちていた。
日本がバブルに浮かれ騒いでいたころ、この国では国民同士が殺しあっていた。
本作は、今もそのころの傷が残っていることを描いている。

ベイルートの住宅街。パレスチナ難民のヤーセルは工事の現場監督をしていた。
一方、車の修理工場を営むトニーは、キリスト教政党の熱心な支持者で、身重の妻を抱えていた。
そのふたりが、ちょっとしたことから口論になる。
謝罪に訪れたヤーセルだが、トニーがさらに罵ったことから、暴力を振るってしまう。
問題は法廷に持ち込まれ、それをメディアが取り上げたことから、このふたりの争いは国民を巻き込む裁判に発展していく。

レバノンの宗教や政治問題、大変なので端折って書くが、キリスト教徒とイスラム教とが混在して暮らしているこの国で、80年代、各派閥が近隣の支援を受けてお互いに抗争を繰り返し、深刻な内戦を生んでいた。
内戦なので民間人の虐殺が起きる。
それがまた、憎しみを生んでいく。
内戦終結と共に内戦時の犯罪は不問になった。
人々はいまは穏やかに暮らしてはいるが、憎しみを忘れたわけではない。
ちょっとした口論でそれが出てしまうのだ。

本作でも元をただせば人と人の関係なのだが、その人が属する集団を相手は見てしまい、集団同士の罵り合いとなる。
この映画でも裁判が進むと、キリスト教右翼とパレスチナ難民支持派の団体双方が争う事態に発展していく。
話が大きく広がりすぎ、当の二人も困惑していくほどになるのだ。
そこでふたりは気づく。相手を“人”として見ていくことに。

政治的、社会的な問題を多く含む映画だが、難しくならないように、監督は主人公となる二人の個人的なドラマと法廷劇をうまく組み合わせ、きちんとエンタテイメントとしても楽しめるようにしているので、ふつうに面白く見ることができるだろう。

遠い国の出来事のようにも思えるが、こんなことは日本の日常にもよくあることだと。
人はつい、よく知らない人にレッテルを貼って、くくってしまう。
そして、相手をけなすことで、優越感に少し浸る。
あるいは、相手の気持ちを想像することができずに、素直に謝れない人もいる。
自分の立場からすれば正しいかもしれないが、相手の立場もまた正しい。
また、自分の不甲斐なさや不安を、“奴ら”のせいにすり替える人もいる(飲み屋にはよく来るので)。
どうすれば、おだやかにできるか。
本作では、それを主人公二人が見つけていくところに救いがあるだろう。
良作。★★★☆

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by mahaera | 2018-09-02 10:38 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』最大の敵は自分。似ていないようで似た者同士


監督:ヤヌス・メッツ
出演:シャイア・ラブーフ、スベリル・グドナソン、ステラン・スカルスガルド、ツヴァ・ノヴォトニー
配給:ギャガ
公開:8月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて

格別テニスファンでもないし、ウインブルドンも見ていないが、スポーツ映画はわりと好きという自分。
今年は、実話ベースのスポーツ映画が大豊作で、『アイ、トーニャ』『バトル・オブ・セクシーズ』と良作続き。
本作も、地味ながらもなかなかの感動作だった。

1980年、世界ランキング1位のスウェーデンのボルグは、5連覇をかけたウインブルドンの試合を前に、過度のプレッシャーを受けていた。
“氷の男”と言われ、いつも冷静さを保っていいるボルグだが、その彼の心の内を知っているのはコーチと婚約者だけだ。
才能はあるが自分を抑えられず、癇癪を起こす少年を鍛え上げたコーチと、試合の前の夜に儀式のようにラケットの張りをチェックするボルグ。
彼はかろうじて、自分の感情をコントロールしていたが、それは大きな孤独を抱えることでもあった。

一方、世界ランキング2位のマッケンローの憧れの存在はボルグだった。
癇癪持ちで自分をコントロールできずに、試合中でも悪態をつく。
しかしそれは、トップを目指すための過度のストレスからくるものだった。
そして、運命の対決の日がやってくる。

映画は、ウインブルドンを控えた1、2週間ほど前に始まり、ボルグ、マッケンローの二人がプレッシャーを抱えながら、対決に向かう様子を、過剰にあおることなく、大人の目線で冷静に追う。
まさに水と油のような二人だが、映画を見ていくうちに、その奥底には似た“何か”があることに観客は気づいていく。
そして彼らを支える存在にも。ボルグは父親代わりのコーチ、マッケンローは父親だ。
彼らがいるから、二人は重圧に耐えることができるのだ。

監督は、アフガニスタンに駐留するデンマーク人部隊を追ったドキュメンタリー『アルマジロ』で注目されたスウェーデン人ヤヌス・メッツ。
本作が初長編ドラマ作品だが、ヨーロッパ映画らしい大人の目線と、エンタテイメント性をうまくマッチさせている。
また、ボルグ役のスベリル・グドナソン、マッケンロー役のシャイア・ラブーフも好演。
試合の結果は、有名だからみなさんは知っているだろうが、もし知らないなら知らないで見た方がいいだろう。
僕はハラハラした(笑)。
★★★☆
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by mahaera | 2018-09-01 09:44 | 映画のはなし | Comments(0)